季刊・東ティモール No. 2, January 2001

<裁判>

裁判が始まった


 やっと始まった各地の裁判。しかし、インドネシアにおける人道に対する罪の裁判は、だらだらと引き延ばされている。とかげのしっぽ切りになるとのもっぱらの観測。


●エウリコ・グテレス

 民兵指導者エウリコ・グテレス(26)の裁判が、新年の1月2日、北ジャカルタ地方裁判所で始まった。
 昨年9月24日、メガワティ副大統領列席のもとに行われたアタンブアでの民兵武装解除式の際、エウリコはなぜか警察に呼ばれて留め置かれ、メガワティに会えなかった。だまされたと思ったエウリコは民兵たちに一旦は置いた武器を再び奪取するよう呼びかけた。これで刑法160条の扇動罪(公権力への暴力的抵抗)に問われている。刑は最高で6年の禁錮。別に武器不法所持も問われている。
 2日、裁判所にあらわれたエウリコは迷彩服に紅白のバンダナ、サングラス、黒のベレーといったいでたちで、法廷に入るなり壇上に座った裁判官ひとりひとりと握手を交わした。
 400人の警備員を配した法廷には彼の支持者60人がつめかけ、公判開始宣言の前にインドネシア国歌を歌い、「エウリコ万歳」を叫んだ。
 応援に来た「インドネシア民族統一戦線(FPBI)」という民族主義団体は、エウリコ釈放を要求した。あるスロジャ作戦(1975年12月7日のディリ侵略作戦)のインドネシア人傷痍軍人が、義足をもちあげてエウリコを応援する姿も見られた(写真参照)。
 公判後、この団体は、エウリコに1,000平米の土地を彼のインドネシアへの愛国的な行動に対する賞として与えた。同団体の事務局長で歌手でもあるレニ・ジャユスマンによると土地はエウリコの闘争にシンパシーをもつ仲間からの寄付だということだ。
 エウリコの弁護士は、ジャカルタの裁判所が本件管轄権をもたないと主張した。
 インドネシアでは各州別裁判管轄権が確立しており、アタンブアで起きた事件はクパンの裁判所で裁かなければならない。弁護側はこの点をついたわけだ。弁護側証人の大半が西ティモールにいるため、費用の点から証人喚問できないという問題もある。しかしこの裁判については、クパンの情勢が不安定だとして、司法・人権大臣決定(No. 09.BW.07.03/2000)によって管轄権移動が確定しており、それは公判でも読み上げられた。(スアラ・プンバルアン紙、1月3日)
 9日の第2回公判では、弁護側は、エウリコは統合派の戦士であり防衛のため武装する必要があった、彼はインドネシアにとって英雄だと主張した。
 16日の第3回公判では、エウリコは「もうインドネシア政府は自分のことを尊敬していない。投獄するなり絞首刑にするなりしてほしい」などと語った。弁護人は、エウリコは東ティモール州議会議員であったがその地位はまだ剥奪されていない、州議会議員なら裁判に州知事の承諾が必要だと主張した。
 しかしこの弁護側主張は、22日の公判で却下され、裁判は続行となった。

●UNHCR職員殺害事件

 9月6日アタンブアの国連難民高等弁務官事務所を襲撃し3人の職員を殺害した民兵3人の裁判が、1月11日、北ジャカルタ地方裁判所で始まった。
 起訴された3人は、ジュリウス・ナイサマ(30)、ジョゼ・フランシスコ(35)、ジョアォン・アルベス・ダ・クルス(26)。検察は他に3人を建造物破壊、身体的損傷の罪で起訴している。
 16日の第2回公判では、4人の民兵が病気を理由に裁判所に現れなかった。弁護人はあらためてクパンでの裁判を主張した。

●東ティモールの裁判

 東ティモールでは、住民投票後の騒乱関連としては最初の裁判が1月10日に始まった。最初の公判は、インドネシア法の「予備審理」手続きにしたがって、訴追の有効性を問うもので、2人の被告が別々の審理に出廷した。ひとりはジョアォン・フェルナンデス(22)(民兵)で、1999年9月8日、マリアナの警察署でドミンゴス・ペレイラという村長を殺害した容疑。もうひとりは、ジュリオ・フェルナンデス(30)というファリンティル兵士で、同9月28日、エルメラ県ハトリア村で民兵を殺害した容疑だ。
 騒乱関係の犯罪を裁く「重大犯罪特別判事団」は、東ティモール人判事1人、外国人判事2人で構成される。外国人はイタリアとブルンジ出身。
 ジュリオ(ファリンティル兵士)の件について、ひとりの判事は「まだ罪を認めていない」という点を指摘した。次の公判は2月6日と指定された。また彼は「人々の命令にしたがって行動した」と語っているという。(AFP, Jan. 10)
 ジョアォン(民兵)については、25日、12年の判決が出された。遺族は不満で28年を求めるなどと語ったが、ルワンダやユーゴスラビアでの法廷の基準から12年が決まったという。(AP, Jan. 25)

●ニュージーランド兵殺害事件
 昨年7月に東ティモール内で国連平和維持軍のニュージーランド兵士、レオナード・マニング(24)を殺害したとされる民兵組織「ラクサウル」の元司令官(のひとり)、ヤコブス・ベレ(29)が、1月10日にアタンブアの軍ポストに出頭した。彼の身柄を預かる東ヌサ・トゥンガラ州警察署長マデ・マンク・パスティカは、彼は西ティモールで裁かれるのであり、外国に引き渡されることはないと述べた。インドネシアの引き渡し法にしたがった措置だと彼は言うが、UNTAETとの間で交わした引き渡しに関する覚書については言及していない。彼の裁判がいつ始まるかは明らかにされていない。★(松野)


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