ウィラント問題

松野明久

4月21日、ウィラント将軍はインドネシアの先の総選挙(4月5日)で第一党となったゴルカル党の大統領候補指名を受けた。1999年の住民投票前後の騒乱の責任者の一人として東ティモールの重大犯罪部が起訴した、元国軍総司令官、国防治安担当調整大臣だ。大統領選は7月5日。ウィラントが大統領になる可能性は?そしてもしなったら、訴追はどうなるのか?


ウィラント人気

 ウィラント(57)は、大統領候補指名のためのゴルカル党大会で、ゴルカル党総裁のアクバル・タンジュンを315票対227票で破った。第1回の投票では、アクバル・タンジュンが147対137でむしろリードしていた。第2回投票で、逆転勝ちしたのだ。(AP, April 21)
 ウィラントがそれほどの人気か、と問われると実はそれほどでもない。ゴルカル党は総選挙で第一党になったとはいえ、議席の23,27%を占めるにすぎず、議席を減らした。(全国得票率はさらに低く21,58%に過ぎなかった。)その原因はアクバル・タンジュンにあったと言える。汚職容疑で下級審で有罪判決を受けたものの、最高裁で逆転無罪。本人は感激していた様子だが、この国の司法の公正さなど信じていない国民はかなり白けた。大統領選は国民の投票で決まる。アクバルでは取れないとゴルカル党員たちが考えたとしても不思議はない。ウィラント人気はアクバル不人気の裏返し、ということだ。
 最新の世論調査によると、大統領候補として1位の人気をほこるのは40,6%のバンバン・ユドヨノで、メガワティが2位で14,7%だ。(ウィラントの数字は書いてない。)(Laksamana.Net, May 17)ある記事によると、ウィラントの人気は2,2%だったという。(AFP, May 19)
 ただし、ウィラントは総選挙で第5党となった民族覚醒党(PKB)の副代表サラフディン・ワヒド(ワヒド元大統領の弟)を副大統領候補としてペアを組んでいる。民族覚醒党とゴルカル党を合わせると得票率は3割を越え、組織票が生きれば可能性は低くない。

起訴と逮捕状

 ウィラントが東ティモールの重大犯罪部によって起訴されたのは、2003年2月23日のことだ。ザッキー・アンワル・マカリム、キキ・シャナクリ、アダム・ダミリ、トノ・スラトマン、などと一緒の起訴状で、人道に対する罪を問われている。
 重大犯罪部はさらにウィラントに対する逮捕状を裁判所に請求していたが、それが5月10日になって認められた。重大犯罪部は3月19日に、15000ページにも及ぶ証拠を述べた請求資料をつけて裁判所に逮捕状発行を改めて申請していた。
 ウィラントは、東ティモールの逮捕状発行が、インドネシアの彼の政治的ライバルが仕組んだかのように発言している。「逮捕状発行前にディリを誰が訪問したか、自分は知っている」と彼は言った。(AFP, May 19)
 さて、起訴状と逮捕状が出そろったところで、どうなるのだろうか。何をめざしているか具体的にはわからないが、東ティモールの指導者たちは5月後半、一斉に動き始めた。シャナナ大統領はメガワティ大統領とバリで5月15日に会談し、1999年の暴力についての包括的な解決方法について協議した。その際、ウィラントの逮捕状が両国関係にとってよくないものであることを確認した。ラモス・ホルタ外相は、みんなにとって受け入れ可能な解決を見いだす必要があると述べた。そして、逮捕状を請求した当の検事総長は、逮捕状請求が未熟だったとしてそれを撤回することを求めた。もっともこれは裁判所によって認められなかったが。ラモス・ホルタの言うみんなに受け入れ可能な解決とは何か。ウィラントはシャナナ・メガワティ会談のあと、メガワティに感謝すると語った。会談の結果は彼にとって何かいいものだったようだ。★


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