<巻頭言>

セルジオ・デ・メロ氏の死

 国連代表としてイラクに派遣されていたセルジオ・デ・メロ氏が8月19日、爆弾によって死亡した。このことは、彼が国連事務総長特別代表として国連暫定行政を率いた東ティモールにおいても、大きな驚きをもって受け止められた。
 東ティモール政府庁舎では半旗がかかげられ、午前中で仕事を打ち切った事務所もあった。ベロ司教とアルカティリ首相は、海岸に花輪を投じて追悼の意をあらわした。
 アメリカの東ティモール支援団体は、「打ちのめされたこの国が独立国として自立するのを助けるため、疲れもみせず働いた」「人権高等弁務官を続けていれば、東ティモールの人びとのために正義の実現を追求したであろう」との追悼文を発表した。
 『季刊・東ティモール』としても、非武装のシビリアン(文民)をテロのターゲットにするという行為を、きわめて重大な犯罪として非難したい。故 セルジオ・デ・メロ氏
 デ・メロ氏が狙われたことと東ティモールは関係がないか。これは東ティモールにいる誰もが考えたことだ。
 8月21日のオーストラリアABC放送(Online News)は、ジャラル・タラバニというクルド人指導者の、犯人は東ティモールをインドネシアから奪ったことをうらみに思うイスラム主義者だ、とのコメントを報じた。これも基本的には憶測であり、犯人をイスラム主義者だとするコメントはこれ以外には出ていない。
 昨年10月におきたバリ島のナイトクラブ爆破事件も、東ティモールとの関係が取りざたされたが、今のところ、そのリンクはあったとしても、かなり弱く、二次的なものだったと考えられる。
 しかし、いずれにせよ、テロはステップアップしている。この8月、ジャカルタのマリオットホテルが爆破された。6月はジャカルタの空港で爆破があった。インドネシアでは、爆弾テロはかなり「自由に」やれる状況だ、と見るべきだろう。
 隣国インドネシアがこういう状況だ、というのは東ティモールにとっても関係のないことではない。いずれにせよ、インドネシアでは東ティモールに対する不満は存在し、もし関係が悪化すればそれが暴力的な形態をとって出てこないとは限らないからだ。
 インドネシアでは、東ティモール侵略をなぜしてしまったのかという歴史的省察や、人道に対する罪の責任者の処罰といった正義の問題は、ポスト・コンフリクトのインドネシアが取り組むべき課題だが、これがほとんどできていな。特別人権法廷は失敗に終わり、アチェの戦争は終わる展望がない。パプアでのアメリカ人教師襲撃殺害事件の真相究明もあいまいに推移している。国家的な暴力が不処罰のまま横行している。
 だから爆弾テロが横行している、という直接の因果関係はないが、暴力をいさめない、いさめられない国家が、テロの文化を暗黙のうちに広めているとは言えないか。
 この不処罰は、インドネシアだけの責任ではなく、国際社会全体の責任でもあったはずである。(ま)


ホーム12号の目次情報