Tiltフィルターをブレットボードで作る

Tiltフィルターとは

Tiltフィルターをご存じでしょうか。
ここに辿り着いた時点でご存じですね。愚問でした。
そう、理想のトーンコントローラーでありながら、なぜか市場にその名の製品はほとんど存在しない、知られざる究極のフィルター回路、 それがTiltフィルターなのであります(とか書いてみた)。

コントロールはツマミただ1つのみ。聴覚と感性を研ぎ澄まし、ツマミをむんずと回す。すると...

高域を上げれば低域が下がる。
低域を上げれば高域が下がる。
こっちを押せばあっちが引っ込む。
Tiltとは、傾き、傾斜の意味ですね。帯域全体が、単一のシェルビング特性となっています。
音域全体の最善のバランス決定する、それがTiltフィルターです。

おおむね低域側を楽器の基音帯域、高域側を倍音帯域として見れば、 基音と倍音のバランスを調整する、と考えても良さそうです。

特定の帯域を対象に操作を行うグライコ、パライコや、高域側の減衰のみ行うエフェクターのTONE回路とは異なり、 音域全体のバランスを常に滑らかに、特定の帯域にクセを加える事無く、一捻りで簡単かつ強力にコントロールするという、 唯一無比の特性を備えたフィルターなのであります(とか書いてみた)。

仮に高域を2dB上げれば、低域は2dB下がるので、高低差としては4dB。 同じ4dBの効果でも、トータルのレベルを一定に維持しやすい、という利点があります。

回路構成

Tiltフィルターの回路構成はこんな感じです。オペアンプの反転増幅回路がいりくんだ形です。 ボリュームポッドが1つあり、これを操作する事で低域・高域のバランスを調整します。



シミュレーション

ギターアンプのトーンスタックのシミュレーター TSC in the web にTiltフィルターのモデルが含まれており、そこで完全なシミュレーションが可能です。
なので、自前のシミュレータに組み込む必要は無かったのですが、 EDNのサイトの 「Implement an audio-frequency tilt-equalizer filter」 という記事で、Tiltフィルターの伝達関数を見つけたので、 G★PLOT に組み込んでみました。
この動作確認も兼ねて、ブレッドボードで試作回路を構築して、特性を測定してみました。

G★PLOTの回路図表示

           +------Zc-----------Zr---+
           |                        |
   +--Zc---|------Zr--------+       |
   |       |                |       |
i--+--Zrf--+--Zrp1-+--Zrp2--+--Zrf--+
                   |                |
                   |                |
                   +-----|-\       |
                         |   >------+--o
                   +-----|+/
                   |
                  ~~~

Zrp1,Zrp2は可変抵抗の1~2間, 2~3間の抵抗値を示しています。
それぞれ2つあるZc, Zr, Zrfは同じ値でシミュレーションします(EDNの伝達関数がそうなっていた)。
尚、ZcとZrの接続順は入れ替えても動作は同じです。

設計上の観点としては、
・カット、ブーストの境目となる中心周波数をどこに持ってくるか
・効きの強さを±何dBにするか(むやみに強力だと使いずらい)
の2点になるかと思います。

Zcコンデンサーの値で、効果±0dBの中心周波数を変更出来ます。 単純にZcを小さくすれば高域側に、Zcを大きくすれば低域側に移動します。 効きの強さについては上手く調整するのが面倒くさい。先に効きの強さを決めてから、 コンデンサーの値を所望周波数位置になるように変更する、という手順が良さそうです。

設計例


試作回路

回路図
±10dB版を作成。9V単電源で動作します。

Tilt回路自体は入力信号のインピーダンスの影響を強く受けてしまうため、デュアルオペアンプの片方を入力バッファとしています。 ±10dBとなるように設計したものですが、高域と低域が互いに反対に効くので、高低差が最大20dBとなり、だいぶ効きが強い印象です。 最初、大は小を兼ねるで±20dB版を組んで見たのですが、高低差40dBは明らかに効き過ぎで、ちょっとどうかなというレベルでした。オーディオ的には±6dB位が実用的な気がします。

ブレッドボードレイアウト
トリマー付けたので詰め詰めのレイアウトですが...
ブレッドボード実物

周波数特性を実測

サインスイープで測定。ちょっと凸凹があるのは測定系の問題かと。だいたい設計通りの特性になりました。 グラフのdBの目盛り、-20dBの位置が実際には±0dB相当です。

効き方の安心感

例えば、グラフィックイコライザーはフェーダーが沢山あるので、 より自由に周波数特性が作れるのかというと、そうではありません。 実用的にはグライコは帯域ピンポイントで上げる、下げるためのもので、 例えば1KHz以上のフェーダーを全て+10dBで揃えたとしても、現実の周波数特性はバンド毎の凸凹が出来てしまいます。 グライコの各フェーダーの特性は基本ガウスカーブであり、どんなQ幅の特性を並べても平坦になる事は無い。
2バンドのシンプルなBaxandall型の回路であっても、意図しない起伏があったり、低域の操作で高域が変動してしまう、といった性質があります。

操作系の盛りが多いからといって、意図した特性が得られるわけではありません。 帯域バランスの調整という、基本的かつ最重要な命題を、唯一完全な形で実現する、それがTiltフィルターなのであります!。 自分で書いていてだんだんそう思ってきました(自己洗脳)。