TSのトーン回路の正体

意味が分からないTSのトーン回路

TS808、TS9、TS10や、それを踏襲しているSD1のトーン回路、これどうなっているんでしょう?。

オペアンプの+入力、-入力が可変抵抗でつながっている。なんか帰還してるし。
なんすかこれ。この時点でギブアップ...orz。

「こんなの簡単です。自由に設計できるよ」、という方はさようなら。
「うん、自分も分からない」というお友達、そうあなた!。ようこそ!。

この回路、ネットで検索しても納得できる解説が見つからない。
例えば ELECTROSMASH というサイトに、 Tube Screamer Analysis というページがあり、 「1.5.2 Active Tone Circuit」の章で、トーン ポットの両端で考えれば easy to understand なんて書いてある。

左、トーンを絞ったらパッシブのローパスフィルター
右、トーンを上げたらオーバードライブのゲイン段でよくあるハイパスの形
そう考えろと。

んん?

だってトーンどちらに回してもオペアンプの±入力は可変抵抗20Kで常に繋がっていますが?
だいたいTONE真ん中くらいで調整してますが、その時の動作は?

逆にもやもや倍増です。

これで考えたとしても、トーン回路をモディファイをしようと思ったり、自分で設計しようとした時には、あまり助けになりません。 TSやSD1という定番で古典的なペダルのトーン回路が、21世紀さらに4半世紀に迫るこの未来で、いまだもやもや中(自分だけ?) の感じです。

伝達関数知らんけどシミュレーションを敢行

このトーン回路の伝達関数、調べても分からない。自分で導出する事も出来ないのですが、多分こんな感じかという伝達関数をでっちあげて、自作のシミュレーターG★PLOTに組み込みました。

ナメてますね。

しかしこの伝達関数、実測とほぼ一致します。

TS


TSのトーン回路実測

サインスイープで測定。可変抵抗リニアカーブ(B)で、0,2,5,8,10の位置で測定。
特筆すべきは、リニアカーブでは2~8程度は効きが少なく、回し切ったあたりで効きが急に強くなる点です。 TSの可変抵抗器にGカーブが使われているのは、この特性を考慮したものなのですね。

SD-1


SD1のトーン回路実測

サインスイープで測定。可変抵抗リニアカーブ(B)で、0,2,5,8,10の位置で測定。
SD1のトーン回路のコンデンサーはちょっとマイナーな定数が使用されており、手元になかったので、
0.018uFは、0.015uF//0.0033uF(並列で0.0183uF)
0.027uFは、0.022uF//0.0047uF(並列で0.0267uF)
として、シミュレート&実測しています。
SD1もTONEの可変抵抗のカーブはW(Gと同様)が使用されているようですが、こちらは普通のBカーブでも代用できそうですね。

そして、TSトーン回路の正体とは

TSのトーン回路の周波数特性を見ると、一見高域をカットするローパスフィルターの一種のように見えます。
しかし、固定の0.22uF部分を無くしてシミュレート、実測してみると、その正体が現れました。

回路図を書き換えるとこんな感じです。

シミュレートしてみるとなんと...

こ、っこれは...

念のため実測

TSのトーン回路、実は上下対称のハイシェルビングフィルターとして設計されているのですね。 ちなみに、SD-1も同様です。


オペアンプの±入力端子に可変抵抗が繋がっている点は、グラフィックイコライザーの回路構成と同じです。

↓グラフィックイコライザーの回路構成

実際にはコイル部分は、オペアンプによる疑似インダクターとなっています。
グライコでは、コンデンサとコイルのインダクタンスによるLC共振で特定周波数のインピーダンスが低下し、その帯域でピークやディップを作る事が出来ます。
グライコのインダクタンス部分を無くすとTSのトーン回路の構成と同様となり、その場合、ハイシェルビングフィルターとして動作するのですね。 知りませんでした...。

TSの1KΩとなっている抵抗値はちょっと小さく、これだと可変抵抗が中央部分であまり効かないようです。 実動作は確認していませんが、ハイシェルビングフィルターとして使いやすいように定数を変えると こんな感じになります。

G★PLOTに追加したこの伝達関数ですが、グライコの伝達関数を元にしています。 疑似インダクタ周りの式を単なる定数に変更し、後は固定のLPF部分を、こんなかな的に(←ここが適当)追加したものです。 実測とかなり一致しているので、自作ペダルのモディファイや設計に利用出来ると思います。
リニアカーブの可変抵抗しか入手出来ない場合は、SD1の定数を参考に、TSに近い特性を狙うのも良いかもしれません。

もやもや晴れた

TSのトーン回路が何なのか分からなかったので、個人的に、もやもやが晴れました。

余談ですが、冒頭で紹介したELECTROSMASHサイトの リンク切れの404ページ がかわいいです。