あるある1石バッファ
エフェクターの入力段や出力段などにある、トランジスタやJFET1石によるバッファ回路。
トランジスタの例
エミッタフォロワってやつですね。定番ペダルだとSD-1,OS-2(出力段),OD-3,TS808,TS9,TS10(出力段)
などで使用されている形式。バイアス電圧は
4.5Vになっています。
JFETの例
こちらはOD-2,OD-3,OS-2,OD-820,SansAmp Classic,MicroAmp,SL Drive(出力段)などがこの方式を使用しています。
FETのゲートは電流が流れ込まないので、バイアスへの抵抗の定数は高めの傾向。いずれにせよ、バイアス電圧は
4.5Vになっています。
どちらも低雑音バイアス回路でオペアンプ用に
4.5Vのバイアス電圧を生成して、
これをトランジスタやFETのバッファ回路にも流用する、というケースです。
いろんなペダルで採用されている、あるある方式ですね。
たまに共通のバイアスとは別に、バッファ専用のバイアス回路を設けている場合もある。
Ibanez TS10の入力段は、9.1Kと22Kで分圧し+6.4Vの別バイアスとしています。こんな感じ。
↓分圧計算ページにジャンプ
しかし、回路内に4.5Vバイアスがあるのに、わざわざ別途トランジスタ専用のバイアス回路を作っているペダルは
少数派のようです。
バイアス電圧がずれ過ぎると..
バイアス電圧が適切な値からずれていると、波形が振幅可動範囲からはみ出してしまい、
振幅の上下どちらかが先に飽和レベルに到達。振幅範囲の片側が狭くなってしまいます。
↓ちょうどいい感じの例
↓バイアス電圧が低い例

↓バイアス電圧が高い例

もっとも、エフェクターが扱う信号の電圧の振幅はだいぶ小さいので、概ね動作範囲内であれば、飽和する事は無い。
トランジスタでもFETでも、既に+4.5Vのバイアスを作ってあるなら、それを流用すれば実用上問題なし、という事のようです。
しかし、実用としての観点はさておき、実際にこのバッファ回路の場合、
バイアス電圧は何Vくらいで可動範囲の中央になるのか、ちょっと気になります。
トランジスタの場合は、TS10の例を見ると+4.5Vより高いんだろうな、と推測は出来ます。
一方、JFETの場合は、バイアス無しでも動作する位なのだから、+4.5Vより低いだろう、という推測は出来ます。
んーでもでも、振幅を考えたら9Vのちょうど半分の4.5Vがいつでもベストなんじゃないの?という疑問も沸きます。
良さげなBias電圧を調べてみた
バイアス回路の分圧を20KΩのトリマーにして調整し、波形がいい感じになる箇所を見つけて、
その時のバイアス電圧をテスターで測定してみました。
↓低雑音バイアス回路の分圧部分を20KΩのトリマーに。電源電圧も9Vにぴったりになるように都度調整。
どこが振幅範囲中央か見定めずらいですが、だいたい下記の感じです。
トランジスタの例
トランジスタ | 良さげなBias電圧[V] | 備考 |
2SC1815L-BL | 約6V | UTC製セカンドソース品 |
C945 | 約6V | OSOYOの電子工作基本部品セットに入っていたもの |
2N3904 | 約6V | 〃 |
S8050 | 約6V | 〃 |
S9018 | 約7.5V | 〃 |
4.5Vより高めです。S9018はだいぶ高め。
尚、トランジスタはバイアス電圧をさらに高めに設定する分にはあまり悪化しない、どんどん波形の上側が削れていく、という感じではないようでした。
JFETの例
jFET | 良さげなBias電圧[V] | 備考 |
2SK2881E | 約4.3V | |
2SK117BL | 約4.1V | 廃版品 |
2N5457 | 約4V | 廃版品 |
2SK2880D | 約3.1V | |
J211 | 約2.6V | HF/VHF増幅用 |
2SK2880E | 約2V | |
jFETは4.5Vより低め。型番によっていろいろです。
追記、mosFETの例。
mosFET | 良さげなBias電圧[V] | 備考 |
BS170 | 約6.0V | |
2N7000 | 約6.0V | |
LND150 | 約3.2V | デプレッションタイプ |
mosFETは、エンハンスメントタイプは高め、デプレッションタイプは低めという感じでしょうか。
ここで一つ疑問が沸きます。バイアス電圧が2Vとか7.5Vとかって、
中心4.5Vから偏っていて、振幅の余白が狭いはずでは?。
それなのに、なぜか出力波形は他と同じようにちゃんと振幅している。
そこで試しに、バイアス電圧を良さげに調整した後、
その時の出力部(エミッタやソース)~グランド間の電圧をテスタで測定してみました。
すると、だいたい+4.5V位になっている。
どうやら、1石バッファの場合は、入力部のバイアス電圧で振幅の余白を考えるのではなく、
出力側が+4.5V程度になるようなバイアス電圧がベスト、という事なのですね多分(←オレオレ理論1個追加)。
jFET Bias Zero?
Proco RATの出力段や、Okko Diabloの出力段は、jFETによるバッファ回路になっているのですが、
ゲートの前で1MΩがグランドに落ちており、バイアスをかけていないようです。
ネットの回路図は、ちょこちょこ間違いがあるようなのでなんとも言えないですが、
JFETはデプレッションモードといって、
バイアス無しでも動作しますので、実際バイアス無しの設計になっているのだと思います。
例えばこんな感じ。
もし、この構成を入力バッファとして使用した場合、果たして振幅の範囲は十分確保できるのでしょうか。
実際ギターを入力して波形を観察してみました。
結果、ストラト程度の出力であれば、飽和レベルにはほとんど到達しないようです。
一方、ハムバッカーのピックアップ(Gibson 57 Classic、496R、500T等)のギターでじゃかじゃか弾くと、
波形の下側のピークが飽和レベルに到達してしまいました。
飽和しても突然異音がするような事はありませんが、振幅の幅はちょっと足りなくなるようです。
差し替える場合も便利だし
今回調べたバイアス値ですが、負荷抵抗が十分大きい条件で測定しています。
現実の回路の中で使用する場合は、後段にフィルターが入るなどで、負荷抵抗は下がってしまいます。
この場合、振幅の可動範囲が狭まるし、中心点も少しズレて来るようです。
ソース(エミッタ)に繋がっている10KΩを4.7KΩなどに下げると振幅範囲が少し改善できそうです。
あまり抵抗値を下げると破綻してしまいますので、一概に何KΩがベスト、と決めるのは難しそう。
大きな信号を想定するなら、後ろに繋ぐ回路のインピーダンスを下げ過ぎない(数十KΩ台位?)事で対処する、
というのが無難そうです。
とりまバイアス
4.5V、エミッタ(ソース)抵抗
10KΩとしておけば、トランジスタでもJFETでも差し替え自由ですし、
後は
オノレの聴感で石を選択(考えるな、感じろ)がいいんかな、という結論でした(←オレオレ理論もう1個追加)。