ベルリオーズ生誕200年

 

ベルリオーズ生誕200年記念 ベルギー発行

 

 今年はベルリオーズがフランス、リヨンの東南方の片田舎のラ・コート・サン・タンドレに生まれてから生誕200年を迎えました。この家は今も記念館として残っていますが、早々にベルギーから記念切手が発行されました。

 最近、流行りの10枚シートのマージンにはベルリオーズの肖像が大きく描かれており切手の図案の楽譜の上に書かれた文字は何と自筆の《荘厳ミサ》とベルリオーズの名前です。切手では確認不能ですが詳細は次のとおりに書かれています。

『ル・シュウール氏の生徒ベルリオーズによる大管弦楽と大合唱のための荘厳ミサ』

 この曲は1824年に作曲して1825年7月10目にパリのサン・ロッシュ教会で初演されベルリオーズ自身タム・タム(打楽器の1種)を担当しました。ヒュー・マクドナルドはベルリオーズ最初の大作について、新聞はどれも好評で、師ル・シュウールは「誓って言うが君は偉大な作曲家なのた。君には才能がある。」と述べたと伝えていますが、ベルリオーズの回想録では演奏準備の不足からの失敗作としています。このミサ曲は更に1827年11月22日にサン・トゥスターシュ教会でベルリオーズの指揮で再演されていますがその後ベルリオーズがローマ大賞を得てイタリアに滞在していた1831年に第9曲の<レスルレクシト>の改定版を書いており、この部分は彼がパリ不在の間に2度も演奏され、更に印刷、出版されていたのです。この曲の作曲は医学生であった彼がグルックのオペラに引かれ、パリ音楽院のル・シュール教授のもとで音楽を学び始めて1年ほどしか経たない20歳でした。

 1830年の《幻想交書曲》1837年の《死者のための大ミサ曲》など、彼の成熟期と言われる1830年代の、ほぼ10年前の作品であり、彼にとって最初の大規模作品ですが、その後作曲技法を高めた彼は、この楽譜を自ら破棄したと考えられてきましたが、一方で《幻想交響曲》《テ・デウム》《レクイエム》など、彼の成熟期以降の作品にこの《荘厳ミサ》のさまざまなフレーズを再び復活させていることから、この作品にはことのほか強い思い入れがあったとも考えられますが、今改めてこの作品を意識して聞いてみますと、若さ故の溌刺さや新鮮な楽想、粗削りながら鮮烈劇的で挑戦的な手法の中に、前衛的作曲家ベルリオーズの確かな出発点を見ることができます。

 1991年、学校教師のフランス・モールスはアントワープの聖カロルス・ポロメウス教会のオルガン・ギャラリーに保存されていた書類の中から偶然、分厚い楽譜を発見したのです。その楽譜の表には前記の表題が書かれており、更にフランス語で『このミサ曲のスコアは、全てベルリオーズの手になるものであり、私を彼に結び付けている長年の友情の思い出として私に贈られたものである。』そして“A.ベッセムス,パリ,1835"という署名があったのです。モールスは早速、出版されていた<レスルレクシト>の部分と見比べて見るとその主題はまさしく同一の物だったので、この瞬間、彼は現存しないはずの《荘厳ミサ》のスコアを発見したことを悟ったのです。

 ベッセムスはアントワープ生まれのヴァイオリニストで1826年にコンセルヴァトワールでハイヨに師事しており、ベルリオーズとは親しく、彼はおそらく1827年の再演などに参加していたと思われ、多分、感謝の気持ちとしてこのミサ曲の自筆スコアを贈ったものではないかと推測されます。ベッセムスは1868年に死去していますが、聖カルロス・ボロメウス教会の音楽監督であった彼の兄弟のヨゼフの手に渡っていた楽譜が奇跡的に100年以上眠っていたことになります。《荘厳ミサ》は以上のような経過から1993年10月3日にブレーメンのサン・ペトリ教会でジョン・エリオツト・ガーデイナーによって蘇演され、ウイーン(4日)マドリード(5日)ローマ(6日)と連日演奏され、更に12日にロンドンのウェストミンスター大聖堂における演奏がライヴ録音、録画されているのです。なお、フランスでは別途、ジャン・ポール・プナン指揮、クラコフ国立フイルハーモニー管弦薬団及び合唱団によって10月7日に蘇演されています。


序奏一キリエ    Introduction-Kyrie
グローリア   G1oria
グラーツイアス  Gratias
クオニアム  Quoniam
クレド  Credo
インカルナトゥス Incarnatus
クルチフィクスス Crucifixus
レスルレクシト(改訂版)  Resurrexitt(Revised version)
奉納のモテト  Motet pour l'offertoire
サンクトス   Sanctus
オー・サルターリス  Osalutaris
アニュス・デイ  Agnus Dei
ドミネ・サルヴム Domine,sa1vum


ガーディナーの初収録版はオリジナル薬器による素晴らしい演奏です。特に《幻想交響曲》でも用いられているセルパン(蛇の意のバス管楽器)やオフイクレイド(いずれも今日はパス・チューパで代用している)を用い、この曲の初演がべ一トーヴェンの《含唱》と同じ年とは信じがたい管弦楽法の大家の素晴らしい作品で第3曲目の<グラーツィアス>には《幻想》の第3楽章の音楽が聞こえてきます。


JPS音楽切手部会の松浦豊吉さんから寄せられた原稿を使用させて戴きました。貴重な情報を戴きまして、厚く御礼申し上げます。