これはArthur Machenの'The Little People'の邦訳です。

小人について

私はこれまで一冊の古い本を精読してきた。これからアシキ(Asiki)についての話をしようと思う。アシキまたは小人族(Little Beings)、ちなみに単数形はイシキ(Isiki)である。さて、アシキはもともと普通の人間の子供だと言われている。無防備な人間の幼児が魔法使い(wizards)乃至は魔女(witches)によってつれ去られ、泣けど叫べど救いの手の届かぬ暗黒の森深くに引きずっていかれるのである。まず最初に魔法使いは子供の舌を切り落とす。そのため子供らは二度と話すことができず、魔法使いのことを密告することもできなくなる。ついで子供らは秘密の場所に運ばれて、人目に触れぬまま魔術的な処置を受ける。その処置のために彼等は体中が変化し、不死となるのだ。家の事も、父母の事も、近所の人の事も忘れる。髪の毛さえ変化する。かわいらしい巻き毛があった所には、今や長く真直ぐな髪が背中まで垂れているのである。彼等は後頭部に何かの繊維を捩って作った風変わりな櫛形の飾りを付けている。これは最強の守護を保証するとされ、彼等にとっては命の一部である程重要なものなのだ。地球の裏側のどこかには自家用車を乗り回し、小さな像、偶像、グロテスクな像といったものを愛好する種族がいたりするようだが、それと同じである。アシキは夜歩いている姿を見られることがあり、時として実際に出くわすこともある。もともと恐れを知らない人、魔力や呪によって恐れを忘れさせられた人は、敢てイシキを捕まえ、櫛を奪うことがあり、その櫛は大きな富を所有者にもたらすが、いずれ所有者の平和は失われると信じられている。イシキは人里離れた哀れな土地に住んでいるが、魔法の櫛を取り戻そうと、それが奪われた場所の付近に出没することになるわけだ。1901年という最近にあっても、フランス領コンゴはリブレビユ(Libreville)で小人にまつわる奇妙な話があった。あるフランス人、彼はフリーメーソンの一員であることが知られていたが、レストランでの夕食を終え帰宅する際、道の脇を付けてくる小さな影を認めた。誰何しても返事はなかった。影は先になり後になり、つきまとい続けた。

数夜の後、とある商家(trading house)の黒人召使がイシキに遭遇した。それは、フランス人がそれに会った場所のそばであった。小人は黒人を追跡し始めた。彼は命がけで走って逃げ、主人の貿易商にその出来事を語った。主人は彼の災難を笑い飛ばしたのだが、次の夜白人男性と黒人女性からなる選ばれた会合(select company)でその話をしたところに、例のフリーメーソン会員がいたのである。彼は言った。「貴方の召使は嘘をついていませんよ。本当のことを話しています。私自身小人に会ったことがあります。捕えようとはしませんでしたが。」 そこで黒人女性達は風変わりな櫛形の飾りについて、またそれをいかにアシキが大事にしているか、更にその飾りを手に入れたものは誰でも素晴らしい未来を得られるであろうことを語った。話が済むと(Whereupon)フランス人は--フリーメーソンにもかかわらず(otherwise)--言った。「小人はとても小さかったんですよ。今度見かけたら捕まえてここに連れてきてやりますよ。そうすれば皆さんも小人を見られますし、私の話を信じてももらえるでしょう。」

その後すぐに、かのフランス人と貿易商は夜中に外出してイシキを探したが、小人は見つかりそうもなかった。しかし、数夜の後、フランス人は以前見かけた場所のそばでそれに会った。彼は走ってそれを捕まえようとしたものの、イシキは逃れた。だが、櫛をひったくる事には成功し、それを持って家まで駆け込んだ。小人はこれを快く思わず、護符(charm)を取り戻そうと後を追った。舌を持たないためそれは話すことができなかったが、片腕をもの言いたげに延ばし、もう一方の腕で髪に戻す仕草をした。また熱心に喉をも鳴らした。このようにして宝物を返せと訴えたのである。小人はフランス人を追ったが、家の明かりに照らされる所まで来ると引き返し姿を消した。その夜から、黒人達は度々イシキを目にするようになり、彼らは夜道を歩くのを怖がるようになったのである。イシキはフランス人にいつまでも付きまとった。無言劇のように両腕を振るい、喉音をたてながら。フランス人はいい加減嫌気がさし、櫛を返すことにした。次の夜、櫛と鋏を持って出た。イシキは目の前に飛び出し、護符をもぎ取るや大事そうにしまった。そこでフランス人はイシキを捕えようとした。しかしながら小人が大変身軽だったので逃してしまった、それでも長い直毛を一つかみ切り取ることができ、彼はそれを友人たちに見せたのである。

アフリカで四十年にわたり働いたアメリカ人伝道師、ロバート・H・ナソー博士(Dr. Robert H. Nassau)はこのように語った。氏は自分の話が信じられないだろうと恐れている様子だった。私にとっては逆に、大変信じられるものであった。小人が生まれる過程や不死を得ることについては、当然ながら聞き流すべき類いのものだろう。何も魔法使いが妖術を以て巻き毛のある黒人の子供を素に小人を造り上げるのではない。捕獲調査できれば、人類と同じく口の中に舌があることがわかると思われる。事実、我々自身の民話に登場する小人はこれと非常に類似しており、共通点がきわめて多い:アイルランドのDaione Sidhe、ウェールズのTylwyth Tagだ。どちらの場合も底流は同一である:侵略者に征服され闇の世界に押しやられた小柄な原住民(aboriginal people)なのだ。ここでいう闇の世界とは、ブリテンとアイルランドでは国の最果て、もっとも荒涼とした地にある丘々の地下に潜む棲息地のことである。読者は今日(こんにち)でもAntrimにあるこのような棲息地を知ることができ、それはFairy Rathsだと教えられることだろう。「fairies」や「例のもの達」を、紀元前1500-1000年頃にケルトの侵略から身を隠した小柄で色黒の原住民だと捉える限りにおいて、これらの記述は十中八九、確信をもって受け入れられよう。アフリカにおいては、闇の世界とは森の暗黒を指す。これでもかと生い茂った樹木と下生えによって隠された、恐らくは肌の色を問わずいかなる余所者からも守られた場所、悪臭を放つ沼地を縫う細い道の迷宮によって隔てられた場所である。アシキが舌を切り落とされ、喉音を出すという伝説について、ではケルト古来の小人族ではどうだろう、それらも話せないのだろうか? はっきりはしないが、多分そうなのだろうと思っている。彼らは手招きをし、身振り手振りで意思を伝える。彼らが大騒ぎをしている様子がアイルランドのcountrymmenにより見られているが、その際も口をきかなかった--征服者(現生人類のことと思われる)の言葉を話さないためである。Touraineで外国語を話せない英国人が、まるでイシキがリブレヴィユでフランス人に振る舞ったのとそっくりの振る舞いをしたのを見たことがある。地上のものとも思えない声を出し、太古の身振りで訴えたのだ。しかし彼はただ紅茶にミルクを入れてほしかっただけなのである。アフリカの小人族とアイルランドの小さい人々との間には、更なる共通点がある。どちらも自然と超自然の間の興味深い境界に属している。どちらも「大きさを伝播させる(propagete procerity)」--Johenson博士のエレガントな言葉を使えば--ことができる。アシキについては広く推定されていることであり、ケルト圏でも取り替え子(changeling)の伝説がある。揺りかごに寝ていた赤毛のふくよかなケルト人の赤ん坊が、小さく色黒な生き物に変わってしまうのだ。またどちらも物理的な存在であり、物質的なものと関係があり、物質的なものを使いこなす。現代、われらの時代の小人に関する奇妙な話をソマーヴィユ嬢(Miss Somerville)が語ってくれた。ソマーヴィユ嬢は人気のない丘の上で片足分の靴を見つけたのだ。それは一歳児用くらいの大きさだったが、重く丈夫に作られており、労務者のブローグ(brogue)に類似し、大変履きこまれているように見えた。彼女はまた、二人の召使の話をきせてくれた。召使は急な使いで夜自動車を運転していた。ある町に入ろうかという時、ハーネスが破損した。小さな馬具屋が真夜中に開いており、二人の小さな男が--「妙な男」と声を震わせて表現していたが--いたので、故障したことを告げた。彼らは恐怖にほとんど気を失わんばかりで、店内にいることはできなかった。しかし、修理はできたのだ。しかも大変上手に。

ここで我々は理解しがたい心の状態にぶつかることになる。不死のものがいったい何を労務者風の革靴に望みうるのだろう? 人類以外のその者達がいかにして人類の指図を受けることができ、畏怖と恐怖の目で見られるその者達が、要求に応じて馬具を直すことができるのだろう? それらはあり得ないことだと思うかもしれないが、アイルランドでは恐らく今日(こんにち)に至るもまだそれは存在する。黒人がアシキについて思っているのと同じく。

ところで、興味深いことがあるのだが、アイルランドの妖精の世界(Fairyland)は革と密接に関係しているように思えるのだ。妖精のブローグは革製であり、妖精の馬具屋の珍事があり、更に妖精の靴屋であるレプレカウン(Leprechaun)がいる。彼は明らかにアシキの遠縁の従兄弟である。気をそらさせようという彼の妨害にめげずに人が彼への注目を続けられれば、報酬として金の瓶が授けられるであろう。