ヨーロッパの福祉の遅れ
(『続・甦る仏教』146ページより抜粋)

Mr.Hiromichi Mukaibou, "WORKING QUADS" writer

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発信人:向坊 弘道
FROM; MR.HIROMICHI MUKAIBO.
グリーンライフ研究所. 向洋興産株式会社.
GREEN LIFE INSTITUTION IN JAPAN.
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ADDRESS; 3106 ARIGE, KITAKYUSHU
CITY, 808-01 JAPAN.
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TEL & FAX:093ー741ー2413.
WORKING QUADS 12号・原稿


向坊弘道さん、旅行用のリクライニング式車いすで

◆ ヨーロッパの福祉の遅れ

      『続・甦る仏教』146ページより抜粋


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【11日目】

 ドナウ川を見たあとで三日目の会場へ行くことにしました。ドナウ川を愛した
音楽家たちは”ドナウ川のさざ波“や”美しき青きドナウ“など、たくさんの作
品を遺しています。

 現場に来てみると、大変静かな流れの雰囲気で、派手なセ−ヌ川とは趣がまっ
たくちがいます。遊覧船もつながれていましたが、まったく騒々しさはありませ
ん。川岸は最近整備されて、観光客が楽しめる広場になっています。

 会場ではアフリカのケニヤからきたオサカというお嬢さんの発表がありまし
た。

 「キリスト教の牧師であるお父さんは仏教の勉強もしています。私は長い間キ
リスト教が好きになれずに苦しみました。ミサに出るのが苦痛でした。しかし、
最終的にはお父さんの本が縁となって、仏教に出会いました。非常に幸せです」
という意見発表でした。

 また、阿弥陀仏の歌、念仏踊りなどを二曲ほど実演しました。踊りの中でネン
ブツ、ネンブツという言葉がリズミカルに勢いよくくり返され、黒人の彼らは体
で仏教を覚えていくのだということがよくのみこめました。

 ツォッツ博士はウィ−ン郊外に建てる仏教寺院に関するスライドを映して、仏
教の教化活動を希望と自信を持って説明されました。最終イベントは七時からの
さよならパ−ティでしたが、それに出席すると夜行列車に乗り遅れる心配があり
ます。

 やはり失礼するということになりましたので、みんなで合唱するために用意し
てきたシュ−ベルトの”菩提樹“の歌詞を石田先生に託して会場を出ました。

 駅では足下の収尿袋に一杯になったしっこを捨てに行くと、トイレは有料で四
十円取られました。便所を無料開放すると、みんなマリファナを吸ったりするな
ど、いろんなトラブルがあるらしいのです。

 荷物用のリフタ−の係りに二度もチップを渡し、夜行列車にやっとの思いで乗
り込んだら、腹の出た駅員がしきりに文句を言ってきました。

 何かと思ったら「私は車掌だ。車内には車イスを置く場所がないから降りてく
れ」そして、「予約票を見れば二等車だが、二等の個室には6人も乗り込むん
だ。あんたはどういう考えで混雑する個室をとったのか?」と言っています。

 私は少し腹が立ってきました。

 「これはパリで取った予約票だが、この通り、一等のパスを持っているのに二
等の個室になっているのがおかしいんだ。私のせいじゃあないのはあんたも分か
るだろう? 現場でもう一回相談してくれというので、さっきから2時間もイン
フォメ−ションや切符売り場を行ったり来たりしているではないか」

 こういう場合には、黙って引き下がると正しくても負けたことになります。か
えって倍ぐらいの声を張り上げて文句を言わなければなりません。本格的に腹も
立ってきました。

 「一体おまえら駅員は何を考えているんだ。身障者がこうやって苦労している
のに、せっかく乗り込んだ電動車イスをまた降ろそうとするとは何事か。俺にも
考えがあるぞ! 人権委員会に行こうじゃないか」というふうに凄い剣幕できり
返しました。すると、やっこさんは何かブツブツ言いながら、どこかへ姿をくら
ましました。

 この夜行に乗れないとなると、明日の日本行きの飛行機に遅れるので、どうし
たものかと不安でした。実際、車内の通路に折りたたみのできない大きな電動車
イスを置くと、他の人が通れなくなるので、その迷惑もよく分かるわけです。

 ところが、もう一回さっきの車掌が来て「じゃあ、一等の寝台個室を用意した
から、こっちに来て下さい」と事務的に言うので、ついて行きました。そこは何
と豪華な一等個室で、大変驚きました。

 すかさず遠藤さんに目配せして、10ドルのチップを彼のポケットにねじ込ま
せました。車掌はうれしそうな笑いを浮かべながら「この部屋だと心配要りませ
ん。三段ベッドの個室ですから本来は九人寝られるんですが、あなたがた三人で
独占していいです。

 ドアはこのボタンを押すとロックが入ります。それから、そちらの窓際の梯子
をこっちに移して、ドアの取っ手を挟みつけて、一晩中誰も入ってこれないよう
にして下さい」と説明して忙しそうに出て行きました。

 列車が上り勾配でゆっくり走り出すと、強盗団が武器を持って乗り込み、乗客
を襲うという話は聞いていましたが、パスポ−トまで預かって行く警戒ぶりで
す。

 「本当に助かった。これでドイツから日本に帰る飛行機に乗れるね!」と私た
ちは顔を見合わせて大喜びでした。

 遠藤さんは、てっきりダメだと思っていたらしいのですが、太田さんはのんび
り構えていました。何とか乗れて幸いでしたが、汽車が動き出すと急に緊張が緩
んで腹が減り、買ってきた果物やパンなどをむさぼりました。

 その後は疲れがどっと出て、ぐっすり正体もなく寝込んでしまいました。この
汽車はフランクフルトまで7時間かかるのですが、ほとんどの時間、ぐっすり寝
ていました。

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( 終わり)

(1997年9月29日、『ワーキング・クォーズ』編集部へ電子メールで到着)



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