WORKING QUADS
  • "WORKING QUADS" what's new
  • "WORKING QUADS" links
    『不安だらけの介護保険』
    F.L.C.(Friendly Life Community)会報 : 飛璃夢65号(1999年10月発行)より転載
    Mr. Hisashi Kaneko
    金子寿 さん



    金子寿さん、仙台


    『不安だらけの介護保険』
    F.L.C.(Friendly Life Community)会報 : 飛璃夢65号(1999年10月発行)より転載

    [金子寿]Mr. Hisashi Kaneko

    2000年1月24日 11:00

    原稿の転載



    F.L.C.(Friendly Life Community)会報 : 飛璃夢65号(1999年10月発行)より転載

            『不安だらけの介護保険』

     いよいよ来年度から介護保険がスタートします。しかし、当初から懸念されているサー ビス提供の地域格差は是正されるめどもないまま、この10月から全国の市町村で要介護 認定が始まりました。利用者は、現在のサービスが介護保険の導入に伴って切り下げられ るのではないかという不安だけでなく、厳しい財政事情のもとで今以上に拡充される見通 しがあるのかないのか、先の見えない不安を感じています。

     さらに、介護保険は、保険料や1割の自己負担などの費用の課題、医療の専門化が中心 になって行われる要介護認定の課題、不確定な要素が多いまま、見切り発車で始まってい ます。

     まず、被保険者(保険対象)は、65歳以上の加齢に伴う疾病により要介護の高齢者が 「第1号被保険者」、40歳以上の加齢に伴う疾病により要介護状態になった人が「第2 号被保険者」です。第2号被保険者の「加齢に伴う疾病」とは、特定15疾患、いわゆる 難病、リュウマチ、脳血管障害、ALS(筋委縮性側索硬化症)の方などが含まれていま す。

     これらの第2号被保険者の方へも、介護保険を適応せずに、現在でも在宅サービスの対 象者として、すでにホームヘルパーなどのサービスを提供している自治体があります。な のに、加齢に伴う疾病として介護保険の対象になることに大きな問題があります。たとえ ば、自治体によっては、それらのリュウマチや脳血管障害による障害者の方は、障害の等 級などに関係なく、その生活実態に応じてホームヘルパーの派遣が行われます。

     介護保険では、医療専門家主導によるADL(身体機能)を基本にしたコンピューター による一次判定と、かかりつけ医の意見書を加えて、介護認定審査会で最終的な「要介護 度」が出されます。コンピューターや医師は、身体機能の評価はできても、はたして一人 ひとりの生活実態や、本人の「こんな暮らしがしたい」という希望に耳を傾けてくれるの でしょうか。ましてや、介護認定審査会が対象者一人にかける審査時間は、ほんの十数分 といわれています。

     このような判定を経て出された要介護度が、現在より低く判定された場合に、サービス の切り下げ、「引き下がり」問題が起こってしまうのです。最近になって、国などは引き 下がり問題について、「介護保険で対応できない部分は、これまでと同様のサービスが行 われるよう何らかの方策を行う」ことを表明しています。介護保険法の付帯決議にもその 旨が明記されていますが、たとえ介護保険とこれまでの障害者施策の併給が可能になった としても、現在のように、ホームヘルパーなど一つのサービスで全額を利用できる分けで はありません。

     それから介護保険は、「保険方式の導入による相互扶助」と「利用者の権利性を基本に したサービスの選択制を保障すること」を基本にしています。果たして選択は保障される のでしょうか。サービス料の確保が今後の大きな課題であり「保険あってサービスなし」 は大きな問題です。

     介護保険によって、社会福祉法人など既存の供給主体をはじめ、市民団体や民間企業の 参入規制を大きく緩和し、多様なサービス業者が一気に増えることが予想されます。 し かし、民間企業は参入もすれば撤退もします。儲からなければ、即撤退になってしまい、 そこには当事者の都合はありません。

     また、介護をはじめとする福祉制度は、これまで「措置」という形で運用され、行政の 裁量が基本でした。措置によって作られてきた制度は「お世話」の域をでず、未だに、ホ ームヘルパーが週2〜3回程度しか派遣されない自治体は多くあります。措置は行政の処 分であり、生活実態よりも障害の等級などを利用の基準・制限にしてきたからです。

     介護保険の議論はそもそも、高齢社会の到来を間近にして、社会全体で支えることがで きるシステムを創設させることから始まりました。これまで家族や当事者だけの問題とし て片づけられてしまう介護を、社会全体の課題として位置づけたことには大きな意義があ ったと思います。

     しかし、介護に関わる本質的な課題は、まず、自立の意味を明確にし、それを具体施策 に位置づけることであって、「租税か保険か」の財源論で片づけてはならないと思いま す。これまでの福祉施策は、「在宅か施設か」の二者択一です。この実態が抜本的に改革 されなければ、措置制度から契約に変わったとしても、どんな意味があるのでしょうか。 本人の望むサービスがない中では、むしろ契約と称して「選ばせられる」ことの方が問題 は深刻です。

     1994年に厚生省の諮問機関「高齢者介護・自立支援システム研究会」は、高齢者の 新介護システムについて、下記のような基本理念を打ち出しています。

     『従来の高齢者介護は、どちらかといえば高齢者の身体を清潔に保ち、食事や入浴の面 倒をみるといったお世話の面にとどまりがちであった。今後は、重度の障害を有する高齢 者であっても、たとえば車イスで外出し、好きな買い物ができ、友に会い、地域社会の一 員として様々な生活に参加するなど、自分の生活を楽しむことができるような、自立した 生活の実現を積極的に支援することは、介護の基本理念としておかれるべきである。』

     真の意味でこの基本理念が実現されることを願わずに入られません。介護の必要な障害 者の、「一人暮らしをしたい」「仕事に就きたい」、そんな思いが実現できるシステムの 構築こそが、もっとも肝心なことです。内容に多少の差異はあっても、それは障害種別や 若年・高齢者に関係なく言えることだと思います。

     そして、介護保険は実質的に始まっています。私たちは今後取り組まれる福祉再編の中 で、介護保険の矛盾や課題を検証し、その動向に注目していく必要があると思います。


    F.L.C.(Friendly Life Community)会報 : 飛璃夢65号(1999年10月発行)より転載



    ****************************************
    F.L.C.(Friendly Life Community)
    金子 寿
    [E-mail] QWF03274@nifty.ne.jp
    kotobuki@pa.airnet.ne.jp
    〒252- 神奈川県綾瀬市
    ****************************************



  • "WORKING QUADS" what's new (時間系列によるトピックスの集合)

  • "WORKING QUADS" links (リンク)

  • "Working Quads" Editors (『ワーキング・クォーズ』編集者)

  • "WORKING QUADS" writers (『ワーキング・クォーズ』執筆者)

  • "WORKING QUADS" guests (『ワーキング・クォーズ』ゲスト)

  • "WORKING QUADS" Voice (『ワーキング・クォーズ』声)

  • One Year of the Life in America (『アメリカの一年』)


    "WORKING QUADS" HomePage
    "WORKING QUADS" home pageへのe-mail

    清家一雄、代表者、重度四肢まひ者の就労問題研究会
  •