"WORKING QUADS"ゲスト
児玉 良介 さん
Mr.Ryosuke Kodama, "WORKING QUADS" guests
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米国留学記1
こだま りょうすけ
児玉 良介
ダスキン障害者リーダー育成海外留学派遣事業16期生
セントルイス・PARAQUAD留学研修予定
北九州自立生活推進センター
児玉 良介 さん:『ワーキング・クォーズ』ゲスト:北九州市
[写真説明:児玉 良介 さん]
[ Photo : Mr. Ryosuke Kodama ]
セントルイスは華氏90度(約32度)を越す暑い日が続いています。最も暑い日というのは100度(約38度)近くもあり、それはもう朝からジリジリと刺すような陽射しです。しかし、北九州市のように湿度が高くないので、日陰に入っていればさほど暑さを感じなかったりします。
さて、早いもので、こちらにきて五か月がたとうとしています。日本を発つ前、アメリカでの生活はきっと自分をたくましくさせるだろうと思っていましたが、実際そうさせる多くのことが次から次へと起こってきました。この五か月は私にとって、肉体的に、また精神的にとても苦しい期間でした。今ようやく生活が安定してきて、これまでのことを振り返る余裕も出てきました。ずいぶんと遅くなってしまいましたが、こちらでの生活のことを少し書きたいと思います。
スーパーバイザーのコリーン・スタークロッフの家から、パラクォード(研修先)のスタッフ、スチュワート・フォークのアパートメントに移ったのは四月一日で、介助者としてついて来た兄がセントルイスを発つほんの二日前でした。電動ベッド、机、椅子、その他、洗剤やビニール袋など、最低限の必需品はとりあえずそろえたものの、まだまだ足りないものばかりという状況でした。介助者は、四十才の黒人ジェームス、六十二才の黒人ミルトン、二十二才の白人ロバートの三人を雇うことになりました。まずは彼らに、着脱衣、排便、入浴などの介助方法を教えたわけですが、それは日本にいるときから、写真などで介助マニュアルを作っていたため、さほど苦労はしませんでした。一番の問題は、アメリカにきて以来、ずっと排尿排便の調子が悪いということでした。そんな中でまず起こってきたのは、尾てい骨のすぐ隣にできた1センチ半ほどのひっかき傷でした。介助者のジェームスが、便器かシャワーチェアーに私を移動させるときに、どこかにぶつけたらしく(私は鎖骨から下の感覚がありません)、次の日病院に行きました。実のところ、この傷のせいで研修は大幅に遅れることになりました。
ジェームスの介助というのには他にも不満な点が多くありました。私は四月の半ば、最初の給料日に彼を解雇したのですが、それを決断した最大の理由は、彼が私の財布からお金を抜き取っているということでした。見たわけではなく、物理的状況や彼の態度からそう判断したのですが、おそらく間違いはないと思います。
排尿の不調による不快感、時間どおりにできない排便、ストレスの多いジェームスの介助、長時間座っていたための傷の悪化… その他にも一時間半以上もかかる電車とバスでの通勤やエアコンの影響による睡眠不足などがあり、私の最初のアメリカ生活はとてもしんどいものとなりました。
ジェームスを解雇した後、彼の介助の穴はミルトンがカバーしてくれました。ミルトンは親切で、よく気のつくとてもよい介助者で、排便が予定よりも早くなってしまったときなども、君は友達だからといって嫌な顔一つせず処理してくれました。また、彼は朝鮮戦争の頃、日本に十か月ほどいたとかで、「ダイジョーブ」だとか、「イチバン」だとか、よく片言の日本語を喋ります。彼がいたからこそ、なんとかこれまでやってこれたといえます。
児玉 良介 さん:『ワーキング・クォーズ』ゲスト:北九州市
[写真説明:児玉 良介 さん]
[ Photo : Mr. Ryosuke Kodama ]
お尻の傷のため、午後からはベッドで過ごすことになり、新たに昼間一時間だけの介助者を探すことになりました。ビルの入り口に介助者募集のビラを貼ったところ、運よくキャンディスという二十二才の中国系アメリカ人を介助者に雇うことができました。毎日三時くらいまで車椅子で過ごし、その後はベッドで横になるという日がしばらく続きました。その頃、午前中はパラクォードではなく、英語学校に通っていました。スーパーバイザーのコリーンが、まずは他のスタッフと十分にコミュニケーションがとれることが重要だと考えたためでした。
「早くパラクォードでの研修を始めたい」 研修費用を出資してくれている愛の和運動基金には、日常生活記録というのを送ることになっているのですが、英語学校や体のことなどしか報告できない自分がなさけなく、ベッドで横になりながら研修再開のことばかりを考えていました。そして三週間ほどたった頃、傷の具合はかなりよくなってきているように思えました。そこで月水金だけ一日車椅子に座ることに決め、それらの曜日の午後はパラクォードへ行くようにしました。しかし、それは傷を悪化させ、結果的にパラクォードへの完全復帰をさらに遅らせることになりました。
ルームメイトのスチュワートの具合がおかしくなったのは、パラクォードに復帰することを決めた五月半ば頃でした。彼は四月の下旬にパラクォードをやめており、それ以来、昼夜を問わずよく出かけていました。その日英語学校から私が帰ったとき、彼はめずらしくまだベッドの上で、熱っぽく体調が悪いといい、その日は一日ベッドに横になっていました。次の日の昼英語学校から帰ったとき、彼は眠っており、起こしては悪いと思い、そのままそっとしておきました。しかし、夜私の介助者がアパートを去った後、私は嫌な予感がしだし、同じビルの昼間の介助者、キャンディスに電話をしました。彼女が管理事務所に電話をかけ、人を呼んで私のアパートのドアを開け、スチュワートの容態を見たとき、彼はひどく荒い呼吸で意識がありませんでした。すぐに救急車を呼び、彼は病院に運ばれましたが、昏睡状態でとても危険な状態にありました。尿路感染が原因ということでした。しかしその後は回復に向かい、一か月半ほど後に病院も退院し、今では元気に暮らしています。最初の二週間ほどは、私はほとんど毎日彼のもとに見舞いに行っていました。私のお尻の傷の悪化は、そういったことも原因の一つだったかもしれません。
傷の悪化のため、六月の半ばごろから七月の初めごろまで、私は毎日一日中ベッドで過ごしました。自分の体をコントロールすることには、それなりの自信はあったのですが、わずかづつしか良くなっていかない傷には、ほとほと手を焼きました。しかし、実のところ自分を苦しめていた最大のものは、傷そのものではなかったように思えます。私は仮にも他の障害者をサポートする側の人間として、アメリカにきました。しかし、実際のここでの自分はというと、自分の体をコントロールできず、回りに心配や迷惑をかける人間になっていました。コリーンや愛の和運動基金に、自分が無能であるなどと思われることを、極度に恐れていました。回りの評価にとらわれ、自分のほんとうになすべきことを見失っていたように思います。
思えば私は周囲の人達に、「ほめられること」「よく思われること」ばかりに気をとられ過ぎていたように思えます。そしてそれはしばしば誤った判断を招いてきた。傷の回復が長引いてしまったのは、そのせいだと思います。回りの評価にとらわれず、自分らしく、自分のペースで、自分に自信を持って進んでいくことが大切でした。しかし、これはもうずっと以前からわかっていることで、また同じ事をくり返してしまったわけです。自分を変えるというのはとても難しいです。
パラクォードへは、傷の調子を見て、七月の初めごろから少しずつ通うようになりました。英語学校は授業が文法中心で、会話のスキルを必要としている私には向かないように思え、コリーンには無理をいってやめました。英語は研修を受ける中で少しずつ上達していくでしょうし、自分なりに楽しんで勉強をしたほうが身につくように思います。今では排尿、排便のコントロールもなんとかうまくいっていますし、夜もよく眠れています。パラクォードへの送迎は、コール・ア・ライド(Call-A-Ride :一週間前から電話予約ができる州営のバン。片道2ドル)というリフト付きバンを毎日利用しており、約二十分でパラクォードに着きます。
この五か月間、研修らしい研修はできませんでした。最近ようやく生活にリズムを取り戻しつつはありますが、この先またどんなハプニングがあるのかわかりません。残された研修期間を有効に使いたいとは思いますが、もう無理に優等生でいようとするのはやめようと思っています。しょせん自分は自分でしかないのですから。ともあれ、これ.までの苦い経験はいつかきっと何かの役に立つと確信しています。
平成九年八月十七日
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清家一雄、代表者、重度四肢まひ者の就労問題研究会