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    the Experience in Japan
    Ms. Lo Shih-Lin
    "Working Quads" Editor
    「日本での体験」、

    羅世玲さん

    Ms..Lo Shih-Lin, "Working Quads" Editor
    『ワーキング・クォーズ』編集者
    羅 世玲 さん


    羅世玲さん:『WORKING QUADS』編集者:福岡市
    [写真説明:羅世玲さん]
    [ Photo : Ms. Lo Shih-Lin ]

    the Experience in Japan
    Ms. Lo Shih-Lin
    "Working Quads" Editor
    日本での体験

     日本に来て、もう4年もの歳月が過ぎました。今、振り返ってみると、よくやってこられたなあと思うくらい、辛いことが楽しいことよりずっと多い日々でした。というのは、私はポリオの後遺症で上下肢がマヒして、車椅子で生活しているからです。1級の身体障害を持つ私が、親元を離れ、異国へ留学し、日常生活で次々と問題にぶつかり、不安と戦いながら、懸命に生きた日々でした。でも、その中から、私は貴重なものを得たような気がするのです。

     日本に来てからの最大の変化は、何といっても一人暮しを始めたことです。台湾にいる時には、家族や友達に支えられ、身の回りのことをいろいろしてもらっていました。しかし、一生誰かに側についていてもらうことはできません。何れいつかは一人でやっていかなければならないでしょう。来日を機会に、私は一人暮しに挑戦することにしました。一人暮しを始めるとたちまち、さまざまな問題にぶつかりました。車椅子では階段を上がれません。まず住む場所が制限されたのです。アパ−トの流しやコンロ台には手が届かないので使えません。一人でお風呂に入ることもできません。食事や掃除や入浴や洗濯など日常生活に必要な家事ができないのです。それどころか、室内用の車椅子から、電動車椅子へ移ることさえ不自由なのです。それでも、私は一人で生活することを続けました。私にも使えるように道具を工夫し、独力で生きていくのに必要な最低限のことはできるようにしようとしてきました。私にできない家事は福祉事務所から来ていただいているヘルパ−さんなどに手伝ってもらいながら、一人で生活しています。今でも、誰もこない日、解凍したパンと牛乳入りのコ−ヒ−だけで一日を過ごすこともありますが・・・

     腕に力が入らない私は、車椅子を自分の力では自由に動かすことがあまりできません。来日前は、手押しの車椅子に乗っていましたので、いつも誰かがそばにいる状態でした。日本に来た当初は、まだ手押しの車椅子でしたので、友達に全面的に介助をしてもらっていました。しかし、やがて福祉事務所から電動車椅子を支給していただきました。外国人の私にも支給していただけるなんて、はじめはなかなか信じられないほどのことでした。”自分の力で行きたい時に行きたいところに行ける”−そのすばらしさを味わいながら、私は電動車椅子に乗って、一人で大学に行き、買物に出かけ、散歩しました。新しい世界が目の前に開けてきます。それは、私にとって大きな転機となりました。

     一人で行動し始めてから、よく通りがかりの人から声をかけられます。ポストに手紙を入れようと思って手を伸ばしても届かず、もたもたしていると、「入れましょうか」と通りかかった人がやさしく声をかけてくれます。ス−パ−に行き、腕が上がらないので、上の段のものが取れず四苦八苦していると、側にいるお客さんが親切に「取りましょうか」と聞きます。道ですれ違う名も知らない人から、よく「頑張ってね」と言われます。わざわざ自転車を止めて声をかける人もいます。ある日、気が滅入ったので一人電動車椅子に乗って散歩に出かけ、時速2.5キロの低速で人影少ない静かな路地をぶらついていました。すると、後ろから男女ふたりの話声が聞こえてきました。誰か来たなと思いながら、道端によって、歩き続けました。しかし、しばらくたっても誰も通り過ぎないので、どうしたのかなと思い、振り向くと同時に、すぐ側から「この車椅子は遅くて重いですね」という声が聞こえてきました。気が付かないうちに男の人が後ろにいて、押しても速くはならない電動車椅子を一生懸命押してくれていたのです。こうしたことで私は日本人は親切だなあと感じました。何かあった時でも通りがかりの人に助けてもらえると勝手に思い、私は行動範囲をもっと広げ、一人でいろんなところに行くようになりました。

     ところが、そこで私は一つの問題にぶつかったのです。電動車椅子ではバスやタクシーに乗れないので、どうしても地下鉄を利用することになります。地下鉄に乗るには長い階段を登り降りしなければなりません。電動車椅子は相当重く、私が乗っていたら百キロ近くになりますので、長い階段を運んでいただくのが気の毒だと思って、最初はなかなか頼むことが出来ませんでした。しかし、どうしても一人で行かなくてはならない必要に迫られて、地下鉄に電話を掛けたら職員の方が親切に対応してくださいました。職員の方がふうふういいながらも気持ち良く運んでくださったことに感動しました。今は職員の方と親しくなり、つい最近地下鉄に乗って帰ってきた時、改札口で駅長さんから「お帰りなさい」と言われ、つい「ただ今」と答えました。

     この4年間、いろんなことにあいひどく落ち込んだこともあります。しかし日本に来て良かったと思っています。失敗や挫折に遭いながらも、その中で自分がやろうと思って頑張れば何とかなるのだと自信が持てるようになったからです。私は生活面でもある程度の一人暮しができるようになり、精神面でも前より自立しました。私が今までやってこれたのは数え切れない方々の支えと助けがあったからと思います。欧米と比べたら日本の福祉はまだ足りないと言われていますが、お蔭で私は独力で出来ることが増えました。一人で生活し、一人行動するという、以前の私からは考えられなかった経験ができました。それはしたいという願望のせいもあると思いますが、それ以上に周りの人々の手助けとまったく知らない人の優しい親切な声があったからと思っています。


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    清家一雄、代表者、重度四肢まひ者の就労問題研究会
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