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井手將文:『ワーキング・クォーズ』編集者:総合せき損センター医用工学研究室
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井手將文
総合せき損センター医用工学研究室
Masafumi Ide
Department of Rehabilitation Engineering Research
and Development, Spinal Injuries Center
環境制御装置 Environmental Control System
Masafumi Ide, editor of "Working Quads"
井手將文・"Working Quads"編集者
総合せき損センター
医用工学研究室 井手 将文
E-mail: LEB05217@niftyserve.or.jp
〒820 福岡県飯塚市伊岐須550-4
電話 0948-24-7500(ext.161)
fax 0948-24-6533
環境制御、OTジャーナル、Vol.27, No.10, p977-982, 1993
環境制御装置
環境制御という言葉は、他の分野では温湿度環境の制御や気象制御などの意で使用される場合もある。ここで示す『環境制御』とは、我々の日常生活空間における道具や機器環境の操作を意味する。
身体各部の操作可動域が限定されたり、巧緻性が乏しい、目や耳の機能低下や感覚麻痺で機器操作時に充分なフィードバックがかかりにくいなど、身体障害者や高齢者が日常生活において色々な機器具操作に不都合を生じる事は多い。
一般に、リハビリテーションの分野では、環境制御装置(Environmental Control System)が知られるが、この装置は、重度四肢麻痺者が身の回りの機器を操作可能とするために開発されたものである。環境制御装置を使用する程には重篤な障害を持たない身体障害者・高齢者に対しても、周辺機器のコントロールを容易にする、便利な汎用リモコン装置なども市販されている。
ここでは、重度四肢麻痺者のための環境制御装置、および大まかな上肢機能を有する人々のための操作容易な汎用リモコン装置について解説する。
1.環境制御装置( Environmental Control System : ECS )
重度四肢麻痺者が、その残存機能を活用して身辺の機器を操作するには、以前より色々な工夫がなされてきた。ベッド上で口の到達域に、ボタン,チューブ,ヒモ,マウススティックなどの操作入力端を配置し、それぞれを「噛む」「吸う」「くわえて引く」「くわえて押す」の各動作により、ナースコール,水飲み,枕灯等の電源,テレビ電源・チャンネル,の操作を行っている事例もある。多少の見た目の悪さはあるが、本人が納得し、生活の中で有効に利用されているのであれば、安価にできる大変よい工夫といえる。
ただし、これ以上に機器を操作しようとすると、口の到達域に新たな入力端を配置することになり、操作したい機器が多くなれば新たな入力端の設置が困難となる。
一方、環境制御装置では同じ入力端で多数の機器を操作できるために、周辺機器の増加に対して入力端を増加させる必要はなく、より重度な障害者が多数の機器を操作することができる。
(1)環境制御装置の構成
環境制御装置とは、重度四肢麻痺者が残存機能を利用して操作可能な、1ないし数個のスイッチ(センサー)操作により、身辺の種々の機器をコントロールするための機器システムである。一般的には、障害者からの入力を検出するセンサー部、機器操作の状態を表示するディスプレイ部、操作モードや出力モードを制御したりする制御部から構成される。この環境制御装置に身辺の色々な電気機器 (ブザー, ベッド, テレビ, 電話, エアコン,その他) を周辺機器として接続し、それらのコントロールを行う。
(2)環境制御装置の目的・役割
これまで出来なかった行為が可能となるために、主体的な生活への展望が開けてくる。ブザーや電話操作は、万一の際の安全確保の意味で本人および介助者にとって重要であり、また、電話は生活範囲の拡大においても重要である。その他の機器においても、本人の望む時に介助者への気兼ねもなく自由に,頻回に操作できることは、本人および介助者にとってその心理的・肉体的負担軽減の意味は大きく、在宅重度四肢麻痺者においては特に有用である。
(3)国内で入手可能な環境制御装置
全国で5社が製造しているが、一部に販売地区を限定しているものもある。導入に当たっては、直接製造業者連絡して地区の取扱い業者を確認し、使用者が接続を希望する周辺機器具など、詳細についての打ち合わせが必要となる。各社の機器の特徴一覧およびそれぞれの機器外観を示す。
(4)環境制御装置導入における留意点
a.必要性の認識
環境制御装置導入についての相談を受ける場合でも、価格の話をすると、「そんなにまで出費をして沢山のことをしたいとは思わない」「高価なわりに出来ることが少ない」などの意見を聞くこともある。高価なことも事実だし、これさえあれば全てができるという訳でもないが、その恩恵は大きなものである。その価値を知るためには、実際に試用してみることが一番だが、それがかなわなければ、最寄りのユーザー宅を訪問し、本人と介助者の体験を聞くことをお勧めしたい。
ECSユーザーの一人であり、多くの重度障害者からの生活相談を受けることも多い上村氏は、『最近、パソコンやワープロの価格が安くなり、障害者本人は勿論のこと、家族、さらにはリハビリの指導に当たる人達の中にも、パソコンさえあれば(与えれば)障害者が自立できる(出来るのでは)---- 的な安易な考えが良く聞かれます。〔中略〕 勿論、個々の経済的な背景も考慮したり、生活観・価値観の違いもあるだろうし、生きがい(パソコン)か、生活の充実か?というような所にもつながるので、どちらがどうとは言えませんが、でも、少なくともこうした生活の基本の部分の整備〔ECSの導入等:筆者注〕だけは出来る限り早い時点で取り組みたいことであり、必要不可欠なことだと思うのです。』と述べている。
b.入力方法および設置方法の選定
残存機能の把握をして、どの部位での操作が良いかを選定する。また、体位交換も含めたベッド上での姿勢を把握し、入力端の設置場所と設置方法を検討する。室内環境や日常の生活行為, 介助行為に邪魔にならないかも検討する必要がある。
c.ディスプレイ部の設置場所の検討
姿勢により視野が変化するので、常時見える位置として、ベッド足元のパイプ、頭上や
足側の棚などに設置する場合が多い。ベッド固定の場合には、ケーブル処理に留意する。
d.周辺機器および機種の選定
テレビやラジオでは、ダイレクトチャンネル選択でなく、チャンネル送り選択ボタンがあるものを選定する。電動ベッドやエアコンの中には、環境制御装置と相性の悪い機種もあるので、選定時に業者に確認することも必要である。
e.保守人員の確保
納入業者が、保守責任を持つのは当然であるが、業者が遠隔地の場合はどうしても対応に時間がかかる場合もあり、少し電気が分かる知人や近くの電気店の人に、設置時に一緒に話を聞いてもらい、トラブル時に本人と一緒に電話をかけたり、納入業者からの電話での指示により作業を行える人になってもらえれば都合が良い。
2.大まかな上肢機能を有する人々のための操作容易な汎用リモコン装置
a.大型のボタンを有する学習機能付汎用赤外線リモコン装置(図10)
(株)パシフィックサプライ社製
『リモコンエイドSW』:27,000円
10×20cm程度の広さに11個のボタンが配置され、切り換えにより20個分として使用できる。このボタンに各機器に付属している赤外線リモコンボタン20個分の信号を記憶しでき、何台かの付属リモコンの必要なボタンだけをこの汎用赤外線リモコン装置1台に集めることができる。ボタンが大きいので、手指が麻痺していても、上腕および前腕の動きがあれば操作可能な場合もある。
b.電気機器の電源の ON/OFF をコントロールする汎用リモコン装置
『ポータブルコントローラ:HY-301』
(株)松下電器産業製 本体:HY-301 46,000円 子機:HZ-703 12,000円
10×20cm程度の大きさのボックスで8個のボタンが配置されており、本体を家庭内の電
灯線コンセントに差込み、8個の子機を任意の電灯線コンセントに差込むことで、8箇所のAC100Vの電源が ON/OFF できる。
『リモコンスイッチ:NE-657』
(株)ノア製 送・受信機セット 約 7,000円
〒410 静岡県沼津市足高字尾上355-4
0559-23-6101
4×8cm程度の大きさの送信リモコンに、2個のボタンが配置されており、電波による遠隔操作で、受信機側に接続した2種類の電気機器の電源の ON/OFF を可能とする。送・受信機の有効距離は約10m。
参考文献
1)日向野和夫:ディーラーの立場から考えた技術支援,
リハビリテーションエンジニアリング,Vol.8, No.1, 17-20, 1993
2)伊藤英一, 他:環境制御装置の工夫例,第7回リハ工学カンファレンス講演論文集,83-86, 1992
3)一戸美代子:重度四肢麻痺患者にとってのECS-「ECS のニーズと利用の実態調査」を通して,第6回リハ工学カンファレンス講演論文集,439-440, 1991
4)上村数洋:生活の拡大にともなうECS, Rc.E,各種リモコンの併用について,第6回リハ工学カンファレンス講演論文集,433-436, 1991
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