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丸紅基金データベース・書籍（本）

細川辰正・『ワーキング・クォーズ』編集者

『上の空』、藤川景著、

『上の空』、藤川景著

「上の空」を読んで

今まで頚損の体験記を読むのは苦手でした。他人の手になるものは往々にして通俗的な闘病美談になる可能性があるし、本人が書けば健常者である多くの読者に通じないところや誤解を生む危うさがあります。

その点、藤川さんは頚損になったばかりで健常者の目をもっているし、事故直後からのことを若干のタイムラグをおいて書いているので、時間がたつと本人ですら忘れてしまう受傷直後の頚損の心理が良く描かれています。私も頚損ですが、事故直後のことや健常のときに自分がどんな内的感覚をもって生きていたかなどよく思い出せません。なぜ忘れるのでしょうか、それは長い時間の経過もありますが、頚損が生きていくために本能的に身につける知恵だと思います。（知恵？　知恵と言っていいのかどうか）

この本には実際的な利益もあります。私のような古い頚損は古い治療法しか知らないので、いわばパソコンソフトをバージョンアップするように自分の知識を更新する機会を待っていました。著者は受傷直後の頚損に対する最新の治療法をわかりやすく書いています。

最終章の「上の空ーあとがきにかえて」は退院後の頚損を待ちかまえるものを描いて鬼気迫るものがあります。まるで一編の短編小説を読むようです。

頚損とは何かを知りたい人にはぜひ一読をすすめたいと思います。