春の雨が降っている
夜の駅のホームに一人いる
冷たくはない雨はホームを濡らし
小さな水たまりを作る
そこに重なり広がる空からの波紋
いつ飛び込んだのかさえ捉えられない
雨粒は終わりの予感のない
静かな繰り返しの世の住人で
その静けさの傍らに立ち
言葉なき世界に手を触れたい僕を
騒ぎ立てる声が囲んでいる
閉じることの無い口が
それぞれの思いに止まらない
好きでもない言葉が雨の静けさを掻き消して
そこに飛び込んでくる
今日の終わりを急ごうとする列車
雨はどうなったのだろうか
勢いよく突っ込んでくる鉄の塊の横暴に
蹴散らされて破られた静けさは
ただ降ることだけの専心は
終わりない繰り返しの世界は
それを打ち破る雑念だらけの散漫な心
開いたドアから次から次へ
降りては僕を突き飛ばして肩をぶつけ合い
また電車に飲み込まれて行く人の群れに
心無い人形のように体預けている僕は
春の雨の畔にただ粛として
立っていたいだけなのに
ただ静かに降りてくる
春の雨粒に見惚れ時を忘れて
惚けていたいだけなのに
春の雨よ僕はいつまでも
そちらの静けさには住めはしない
心惹かれても雑念の手に引き戻されて
襟元を捕まれて息が詰まりそうに
毎日の電車に押し込まれている
満員の人に体凹まされながら生きている
囚われと憧れとの間に引き裂かれている
騒がしいこちら側の住人なんだ