gokudo-heiki 極道兵器

コミックジャックポット(リイド社)1996.8月号〜97.10・11月合併号
週刊漫画サンデー(実業之日本社)1998.12/15〜99.1/19号

極道兵器1巻 極道兵器2巻 極道兵器3巻
〜リイド社 1〜3巻(1巻1997.3.19初版 / 2巻1997.10.24初版 / 3巻1999.5.9初版発行)〜

極道兵器・岩鬼将造は改造人間である。彼を改造した日本 政府は、世界征服を企む「デスドロップ・マフィア」の上陸を 阻止すべく戦っている。極道兵器は日本の首領(ドン)として デスドロップ・マフィアと戦うのだ。 (…中江真司の声で)

正直この作品は、到底レビューで伝えられるような「面白さ」 ではない。テーマとかメッセージとか、そりゃ掘り返せば 書けないワケではないが、そういうところじゃないのだ。 マンガとは、コマの流れであり、壮快なセリフの応酬であり、 荒唐無稽なアクションをキチンと絵にまとめるという説得力 なのである。

百戦錬磨の傭兵どもが尻込みするジャングル戦で「弾なんぞ、 怖いと思うから当たるんじゃ〜!」と叫びながら駆け抜ける。

超高層ビルを1フロアごとぶっ飛ばしながら、ダルマ落とし。 敵のサイボーグ用心棒をサーフボード代わりに、崩れる外壁 をすべりながら、「この夏一番の波が来るぜ〜!」

核テロリストの脅しの通常弾にマジギレ、「わしは核爆発見た かったんじゃ!だのにあないな線香花火でごまかしおって!」

敵の脅しにヤツは屈しない。なぜなら「日本全部がわしのシマ じゃあ!!」シマを預かるドンの務めなのである。任侠である。

石川賢という作家の底力というか。マンガ界が大友克洋以後、 実写さながらのリアルな背景描き込みを求め、マンガ的な タッチを一歩進めたのに対し、ソレを吸収消化した上であえて 「マンガ的な表現」ができてしまうのを見せ付けてくれた作品。


「極道映画テイストで『仮面ライダー』をやったらどうなるか?」 それがこのマンガの出発点だそうだ。風の噂では後にOVA『真(チェンジ!!) ゲッターロボ』などをダイナミック企画でプロデュースする徳原 八州氏のアイデアだとも聞く。

仁義なき戦い・広島死闘篇 東映ビデオ 石川賢が「最近は出来ない、ちょっとひどいな」と思うコトも やってみたい、と『5000光年の虎』のインタビューで語っているが、 この主人公・岩鬼将造はそのコードネーム<マッド・ドッグ>どおり、 拷問を嬉々として行ない、自分が信じる義侠心のままに動く姿は、 中で脇キャラが語るように「狂っている」。身内を愛し、日本を愛し、 その外には容赦ない狂犬そのものだ。

このキャラクターの源流は、『仁義なき戦い』2作目「広島死闘篇」 (深作欣二監督:1973年)に登場する千葉真一演じる大友勝利だろう。 古きヤクザ社会を敵に回し、粗暴そのものの振舞いで仁義も何もなく 闇雲に噛み付くリーダー。第一作で狂犬のように暴れた広能昌三(菅原文太) ですら手におえない暴れ者である。その性格だけでなくファッションも モデルになっている。(最も「将造」は文太アニィの「昌三」から 取っているようだが)

主人公・岩鬼将造の持っている「凄み」とは、 素人である我々だと「ちょっと待てよ」…とためらってしまうような、 主人公の動機や行動をスッキリ爽やかに成し遂げてしまっている所だ。 だからこそ、エンタテインメントとして実にマンガらしいマンガに なっているのだ。基本的に岩鬼将造は「いいヒト」ではない。むしろ 近所に住んでいたらたまらないタイプの人間だ。粗暴にして誇大妄想狂、 トコロ構わず腕のマシンガンをぶっ放し、後先考えない街の暴れ者だし。 つーか、バカだな。

しかし今、この狂犬ほど明確に己の正義を語れるだろうか? 悪いものは悪いと、戦いを挑めるだろうか?スッキリ大暴れできる だろうか?


極道兵器・リイドポケット1巻 極道兵器・リイドポケット2巻 極道兵器・リイドポケット3巻
〜リイド社SPポケット 1〜3巻(1巻2002.11.17初版 / 2巻2002.12.21初版 / 3巻2003.1.19初版発行)〜

もし最も石川賢らしい作品を上げろ、と言われたら俺は容赦なく この作品を推す。『ゲッター』でも『虚無』でもない。『極道兵器』 には、マンガ家・石川賢の持つアクション、リズム、キャラクター、 セリフ回し、絵が本来持つ迫力、モチーフの背徳感などに滲み出る 麻薬的な愉しみ、何より不必要に過剰な余りある暴力…が全て詰まっている。

この作品で唯一テーマと言うか、説教っぽい所といったらこの印象深いセリフか。

「社会の正しい姿とは、目に見える健全さと、目に見える 不健全さとがちゃんと、ここにあることだ!不健全さ がない社会は、健全さも目立たない!!

敵は、表向き紳士や事業家を気取り、世界の裏で悪を行なう。 対する将造は、「ワル」である。だからこそ、裏も表もない。 そっと悪事を行なうヤツラを正面切って粉砕するのだ。


ところで、3巻末に収録されている『真・極道兵器』だが、こちらは 深作の『仁義なき戦い』というより、石井輝男監督・高倉健主演の 『網走番外地』で描かれた、じっと言葉少なに耐えながら最期に 爆発する死の美学を背負った極道モノ。タイトルは同じながら、 暴力の中にまみれながら生への執着を見せる深作テイストの連載版 とは対極。

コミックマイティ(リイド社)1996年3月号に「究極読み切り『極道兵器』」 とのタイトルで発表されたものだ。こちらも賢アニィらしい「過剰さ」 「ひどさ」は満開。何しろ主人公・皆殺しの竜、別名極道兵器・竜二は、 殺された恋人の生き写しであるダッチワイフに兵器満載、仁義にもとる 敵を虐殺してしまう。賢アニィ作品に見え隠れするモチーフ「復讐」を 超えた、余りに過剰な「史上最強の義理と人情を持った、 極道兵器」である。


石川賢ROOM
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