歌姫たちの系譜 V
リヒャルト・シュトラウス:歌劇『ばらの騎士』
V 第二次大戦後の復興期を彩った歌手たち
◆ エリザベート・シュヴァルツコップ(S:1915-2006)
【左】【中】 ゾフィー(1964年)
【右】 元帥夫人(スカラ座)
カラヤンとの1956年のレコード録音、1960年の映画収録によって、極めつけの元帥夫人として決定づけられたシュヴァルツコップ。これまでのワーグナー歌いによる元帥夫人ではない、モーツァルトの伯爵夫人歌いが演じる元帥夫人を確立したと言えます。元帥夫人ではライバルとも言われたリザ・デラ・カーザもモーツァルトを得意としました。シュヴァルツコップが舞台を引退した最後の公演も元帥夫人でした(1971年)。
◆ 元帥夫人:エリザベート・シュヴァルツコップ(S:1915-2006)
【左】 メトロポリタン歌劇場での元帥夫人(1964年)
【中】 ザルツブルグ音楽祭での元帥夫人(1960年)
【右】 ザルツブルグ音楽祭での元帥夫人(1960年)
◆ 元帥夫人:エリザベート・シュヴァルツコップ(S:1915-2006)
【上3枚共】 元帥夫人:ザルツブルグ音楽祭(1960年)
オクタヴィアン:セーナ・ユリナッチ(S:1921-2011)
◆ リザ・デラ・カーザ(S:1919-2012)
【左】 元帥夫人
【右】 伯爵夫人(『フィガロの結婚』)
「天はニ物を与えた」と言われて、美貌と美声の両方手にしたデラ・カーザはスイス生まれ。リヒャルト・シュトラウスとモーツァルトを得意としました。また、『ばらの騎士』では元帥夫人、オクタヴィアン、ゾフィーの3役すべてにおいて成功した数少ないソプラノです(他にはゼーダーシュトレームがいるのみ)。
キャリアの初期はチューリッヒ歌劇場でゾフィー、ジルダ、ミミなどを歌いました。リヒャルト・シュトラウスの歌劇『アラベラ』のズデンカでザルツブルグ音楽祭(1947年)デビュー、作曲家リヒャルト・シュトラウスをして「いつかこの子は私のアラベラになる。」と喜ばせたとされています。翌1948年には『フィガロの結婚』の伯爵夫人とリヒャルト・シュトラウスの『カプリッチョ』を歌います。この成功により、ウィーン国立歌劇場における彼女の長いキャリアは彼女が引退する1978年まで続きました。1951年、ミュンヘンで初めてアラベラを歌い、ここに彼女とこの役との栄光に満ちた関係がスタートします。1952年カラヤン指揮するミラノ・スカラ座でゾフィーを歌い、1月26日の録音が残っています(オクタヴィアンはユリナッチ。)。
1953年伯爵夫人でメトリポリタン歌劇場デビュー、この頃からオクタヴィアン、元帥夫人も歌い始めます。1964年12月19日メトにおける彼女のオクタヴィアン(元帥夫人はシュヴァルツコップ)の録音が残っています。
◆ リザ・デラ・カーザ(S:1919-2012)
【左】 オクタヴィアン:メトロポリタン歌劇場
元帥夫人:エリザベート・シュヴァルツコップ
【中】 元帥夫人:メトロポリタン歌劇場
【右2枚】 元帥夫人:ザルツブルグ音楽祭(1960年)
オクタヴィアン:ユリナッチ、
ゾフィー:ギューデン
【左】 ロッテ・レーマンとデラ・カーザ
【中】 ガルミッシュ・パルテン・キルヒェンにあるリヒャルト・シュトラウス協会、資料室にあるデラ・カーザの等身大パネル
【右】 リヒャルト・シュトラウス:歌劇『アラベラ』
【左3枚】 リヒャルト・シュトラウス:歌劇『アラベラ』
【右】 リヒャルト・シュトラウス:歌劇『ナクソス島のアリアドネ』
◆ セーナ・ユリナッチ(S:1921-2011)
【左】 オクタヴィアン
【中】 カラヤンとユリナッチ(オクタヴィアン) ザルツブルグ音楽祭(1960年)
【右】 オクタヴィアン
セーナ・ユリナッチはユーゴスラヴィア出身。戦後ウィーンでデビューし、1955年にウィーン国立歌劇場でオクタヴィアンを歌います。1960年のザルツブルク音楽祭祝祭劇場柿落としでもオクタヴィアンを歌い、当代随一のオクタヴィアン歌いと称されました。後にロンドンで初めて元帥夫人を歌い(その時のオクタヴィアンはファスベンダー)、以後元帥夫人を49回(オクタヴィアンは79回)、1982年の引退まで歌い続けました。元帥夫人を歌った1969年のライヴ録音が残っています。ウィーンでは街を上げて彼女の80歳の誕生日を祝ったとか。
【左】 オクタヴィアン:セーナ・ユリナッチ
オックス男爵:オットー・エーデルマン (ザルツブルグ音楽祭)
【中】 オクタヴィアン:セーナ・ユリナッチ
オックス男爵:クルト・ベーメ (ウィーン国立歌劇場)
【右】 ファーニナル:エーリッヒ・クンツ
【左】 元帥夫人:セーナ・ユリナッチ
オクタヴィアン:ヴィセ−リ
【右】 元帥夫人:セーナ・ユリナッチ
オクタヴィアン:クリスタ・ルートヴィヒ(Ms:1928-
2021
)
◆ ヒルデ・ギューデン(S 1917〜1988)
【左】 ゾフィー
【中】 ギューデン(ゾフィー)とユリナッチ(オクタヴィアン)
【右】 ギューデン(ゾフィー)とユリナッチ(オクタヴィアン)
共にウィーン国立歌劇場
【左】 から
リヒャルト・シュトラウス:歌劇『ナクソス島のアリアドネ』〜ツェルビネッタ
ザルツブルク音楽祭(1954年)
リヒャルト・シュトラウス:歌劇『アラベラ』〜ズデンカ
モーツアルト:歌劇『フィガロの結婚』〜スザンナ
モーツアルト:『ドン・ジョヴァンニ』〜ツェルリーナ
ヴェルディ:歌劇『リゴレット』〜ジルダ メトロポリタン歌劇場
ヒルデ・ギューデンはウィーン出身。リヒャルト・シュトラウスに認められてゾフィーを歌います。モーツァルトとシュトラウスがレパートリーの中心でした。
この時代に製作された『ばらの騎士』のレコード録音。史上これほどの名演が集中して録音されたことはありません。【左】から
E.クライバー指揮/夫人:ライニング/オク:ユリナッチ/ゾフィー:ギューデン(1954)
クナッパーツブッシュ指揮/夫人:ライニング/オク:ユリナッチ/ゾフィー:ギューデン(1955)
カラヤン指揮/夫人:シュヴァルツコップ/オク:ルートヴィヒ/ゾフィー:ランダル(1956)
カラヤン指揮/夫人:デラ・カーザ/オク:ユリナッチ/ゾフィー:ギューデン(1960)
ザルツブルグ音楽祭では、カラヤンの指揮で1960年祝祭劇場のこけらおとしにこの『ばらの騎士』が上演されました。上記のデラ・カーザが元帥夫人を歌ったCDがその時のライブ録音です。カラヤンはその後1961、1963年、1964年と『ばらの騎士』を取り上げています。
わが国ではちょうどこの頃、1956年10月東京にて日本初演が行われました。
マンフレッド・グルリット指揮東京交響楽団と二期会合唱団
元帥夫人:三宅春恵&毛利純子/オクタヴィアン:川崎静子&栗林深汐
ゾフィー:日高久子、鉄弥恵子
オックス男爵:栗本正、大橋国一
プロンプター:若杉弘、外山雄三、林光
【左】 元帥夫人:エリザベート・グリュンマー(S:1911-1986)
【中】 オクタヴィアン:エリザベート・グリュンマー(S:1911-1986)
【右】 元帥夫人:ヒルデ・ザデック(S:1917-2019)
【左】から
ゾフィー:エステル・レーティ(S:1912-2004)
オクタヴィアン:イルムガート・ゼーフリート(S:1919〜1988年)
マリアンネ・シェヒ(S)
レオニー・リザネク(S :1926-1998)
レーティはブダペスト歌劇場のバレエ出身。初舞台は『ばらの騎士』の黒人の男の子役。1937年ウィーン国立歌劇場へ。その年のザルツブルグ音楽祭でゾフィーを歌う(指揮はクナッパーツブッシュ)。そのときの元帥夫人はロッテ・レーマンとヒルデ・コネツニ、オクタヴィアンはヤルミラ・ノヴォトナ、マルグリット・ボコルでした。ゼーフリートの写真はカール・ベーム指揮のCDジャケット。
【左】 オクタヴィアン:クリスタ・ルートヴィヒ(Ms:1928-2021)
【右】 元帥夫人:レオニー・リザネク(S:1926-1998)
クオクタヴィアン:リスタ・ルートヴィヒ(Ms:1928-2021)
オックス男爵:ワルター・ベリー(Bs:1929-2000)(メトロポリタン歌劇場)
【左】 オクタヴィアン:クリスタ・ルートヴィヒ(Ms:1928-2021)
ゾフィー:レリ・グリスト(S 1932-)
【中】 元帥夫人:クリスタ・ルートヴィヒ(Ms:1928-2021)
1969年ザルツブルク音楽祭
【右】 元帥夫人:クリスタ・ルートヴィヒ(Ms:1928-2021)
オクタヴィアン:タチアナ・トロヤノス(Ms:1938-1993)
ルートヴィヒは後に元帥夫人を歌うようになり、1969年ザルツブルグにも出演します。メゾでは珍しい例です。
【左】 ゾフィー:アンネリーゼ・ローテンベルガー(S:1924-2010)
オクタヴィアン:クリスタ・ルートヴィヒ(Ms)
【右】 アンネリーゼ・ローテンベルガー
ローテンベルガーはカラヤンの映画『バラの騎士』で一躍脚光を浴びます。
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