頭痛少女の純情

 当たり前だが生理になったことは1度もない。だから生理痛の苦しみも、バファリンかセデスかで悩むという経験も、ズレてモレることへの恐怖心も、解らないし解るはずがない。解りたいかといわれれば? うーん、と悩んでしまうのは何故だろう。

 自分自身が女性であることを毎月毎月確実に確認させられる「月の病」の存在は、自分自身を見つめ直すという作業を重ねることで、確実に女性を強くしている。女性のようには、自分を確認する手段を持たない男性は、故に仕事とか力とかいった部分で、男性であることを確認し、周囲にひけらかすことになるのである。なんて勝手に想像している。

 久美沙織さんの最新作「頭痛少女の純情」(徳間文庫、520円)は、「アレ」の日が近づくと頭痛に悩まされる女子高生、田中康子(おいおい)が主人公。高校には2人の仲良し同級生がいて、家には淀川大の心理学科に通う兄貴がいて、兄貴には同じ大学に通う美人のガールフレンドがいる。恋をしたことのない優子が、兄貴の学校に手伝いにいって出会った男は、まるで猿人のような体躯をした本田原幸一。だけど優子は本田原に恋してしまって、いいたい気持ちがいえない悩み、聞きたいことが聞けない苦しみに、もだえる日々を過ごすのだ。ああ、何という悲劇(笑)!

 SF作家として、または少女小説の第一人者として、数多くの著作とファンを持つ久美さんだけど、じっくり読んだのはこの本が始めてだった。少女の心理が解らなくても、解ったような気分にさせてくれるのは、登場人物たちの心の動きを、誰もが納得できる形で描写しているからだろう。ドキドキしたりワクワクしたりシクシクしたり、そんな当たり前の心の動きを、実に当たり前に書いていて、それでいてとても面白い。

 女性の作家であるにも関わらず、猿人のような男を美人のヒロインが恋する相手に据えたり、カバのような男を才媛の女子大生が結婚する相手に選んだりしているのを見ると、逆さラッキョのような自分も、まんざらあきらめたものではないと、ちょっとは安心してしまう。それにしては浮いた話がないところを見ると、逆さラッキョはサルよりもカバよりも、魅力に乏しい相手なのではなかろうか。シクシク。

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