わたしはネコである殺人事件

 生徒から夏休みの課題として提出された読書感想文の1つに、藤原瞳(小学校教師)は深く見入っていた。

 「ぼくはしょうらい、すいり小説を書く人になりたいとおもっています。きょう、いしいひさいちというマンガ家の人の、『わたしはネコである殺人事件』(講談社、800円)という本をよんで、推理しょうせつを書くお仕事って、とってもとってもたいへんなんだなとおもいました」

 「推理しょうせつを書く人は、よくホテルにかんづめになるそうです。ごはんはカンヅメです。ホテルでカンヅメを食べるのをかんづめっていうんでしょうか。シーチキンとかさんまのカバやきだったら、だいすきだから毎日食べてもいいけど、『やきとり』って書いてあるカンヅメはからいからキライです」

 「推理しょうせつの人って、雑誌のしめきりが迫っていても、ほかの作家のひとが書いていないと、書かないんですね。10行のあらすじを50枚にふくらまそうとして10行で終わっちゃうんですね。それからまちがえたフリをして原稿を頼まれてもいないへんしゅう部に送って、ついでに原稿をたのんでくれないかって、どきどきしながら電話を待ってるんですね」

 「旅行に行きたいって編集しゃのひとに頼むと、旅行だいり店に連れていってくれるんですけど、パンフレットだけをわたされて、行った気分になるんだそうです。推理しょうせつの人って空想する力がすごいんですね。最近はバーチャル・リアリティーがはったつして、立体メガネでいろんなけしきを見れるのが面白そうです」

 「推理しょうせつの人は、作家と出版社とタイトルだけでどんな小説かわかっちゃうんみたいです。それからいい推理しょうせつは、はじめの3ページで話の展開から犯人までみんなわかっちゃうんです。推理しょうせつを書くのって、とってもむずかしそうです」

 「推理しょうせつの人って、じぶんよりつまらない小説が賞をとったパーティーには、出席のはがきを出していかないんだそうです」

 「じぶんの使ったトリックって3ねんたつと忘れちゃうから、また使ってもいいんだそうです。それからトリックを考える時は、ふすまを机にたけかけてほうきをかぶせて花ふぶきをまき散らして考えるんです。おうちがこわれるまで仕事をする推理しょうせつの人ってやっぱりたいへんです」

 「ほかにもたくさん、たいへんそうなことが書いてありました。でもこれをみんな守ったら、ぼくも推理小説を書く人になると思います。いっしょうけんめいがんばろうと思います」

 そうか、この手があったと藤原瞳(小学校教師)は思った。

 藤原瞳(小学校教師)は推理小説を書いて投稿し授賞した。

 こうしてミス・イージーこと推理作家の藤原ひとみが誕生した。


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