VS!! −正義の味方を倒すには−

 正義の味方を相手に戦う、悪の組織の戦闘員。怪人が登場するまでのつなぎ役として登場しては、十把一絡げとして正義の味方に粉砕され、蹂躙され蹴散らされながらも怪人の来臨を引き立て、あとは野となれ山となれ。荒野に散って塵と果てるか、雨に流され藻屑と消えるか。いずれにしても、そこに明日を夢みて生きる希望は存在しない。

 だってそれが戦闘員、戦うためだけに創り出された生命体だから仕方がないと、他のメンバーたちは考え日々を戦っている。けれども、戦闘員21号だけは違った。正義の味方と戦って死ぬ、というよりただ消滅するだけの人生に、釈然としないものを感じていた。だから、戦いはしても無駄死にだけは避けていた。玉砕覚悟で突っ込むなんてもってのほか。無理だと分かれば潔く撤退。それで、幾度もの戦闘を生き延びていた。

 消滅したって、次にふたたびフラスコから創り出されて、戦闘に送り込まれる戦闘員に、身を惜しむ感情が必要なのかどうなのか。戦闘員を作りだしたドクター・パラケルススに、どんな意図があったのかは謎ながら、戦うことに血気盛んな仲間や、戦うことに使命を怯えているリーダーたちの間にあって、21号だけは戦いへの疑問を抱き、それでも仕事だからと戦っていた、そんなある日。

 どんな怪人でもかなわなかった正義の味方を、これなら倒せるかもしれないという、史上最強の怪人ジャバウォックが造り出され、送り込まれてくると聞いて、悪の組織は盛り上がる。ところが、やって来たジャバウォックは、なぜか戦うのが嫌だといって、悪の組織を逃げ出した。そして、寡黙な美少女の姿をした戦闘員22号と21号が暮らすアパートの一室にやってきて、そのまま居座ってしまった。

 和泉弐式の「VS!! −正義の味方を倒すには−」(電撃文庫、590円)は、悪の組織と正義の味方という、お約束のように戦っては、お約束のごとくに正義が勝利する構図への疑問を、ひょいと投げかけてみせた物語だ。悪の組織が主役になった作品なら、他にも幾つかあるけれど、この「VS!! 正義の味方を倒すには」で面白いのは、やられるだけの理不尽な立場に倦むのではなく、正義に勝てるのだったら勝ちたいという意志が見えること。それが、惨敗の連続で沈みがちになる展開に、一筋の光明を見せている。

 倒される度にフラスコで培養し、補充した戦闘員を戦いに送り込むシステムが、効率化を理由に廃止されそうになって、不要とされた戦闘員たちは、せめて最後の花を咲かせよう、あわよくば力を見せて組織に撤回を迫ろうと考えた。そんな玉砕にも似た計画に、最初は背を向けていた21号だったけれど、戦いの場に足を踏み入れ、誰かのために何かをすること、それが命を失う可能性があることでも、やるときにはやらなければいけないんだという思いを感じ、受け止め自ら行動に移す。

 戦うこと。生きること。悪の組織の戦闘員にとって、相矛盾する2つの命題を、ともに得ようとするならば、いったい何が必要か。運命を漫然と受け入れるのではなく、工夫して、努力して、つかみ取るのだという意志の大切さを見せつけてくれる物語。絶対無敵の正義の味方でも、どこかに弱点があるはず。それを探り、衝いて勝利に近づこうとしていく21号たちの戦いぶりに、戦略シミュレーション小説を読むような楽しみを味わえる。

 戦いを終えて得られたものの大きさを噛みしめ、失ってしまったことへの痛みを味わいながら、21号たちはいったい、どんな悪の組織へと発展していくのか。正義の味方だって何度もやられる訳にはいかない。絶対に強く、絶対に負けないのが正義の味方であるならば、次は必殺の力でもって、悪の組織を潰しにかかるだろう。それにいったいどう挑むのか。馴れ合いではない、こと戦いにおいてはシリアスさを漂わせている物語だけに、次があるならより凄絶で、そしてスリリングな戦いが繰り広げられそうだ。

 正義の味方と悪の組織が、ともに奪い合うレコードスフィアと呼ばれる落下物がいった何で、それを集めることによって何が起こるのか。正義と悪、相対的に分けられている2つの勢力が、本当にそうした単純な構図なのかも含めて、ふくらんでいくだろうこれからの展開を見守りたい。正義は勝つとは限らなかった。けれどもやっぱり勝つ正義に、挑む悪の組織の必死さを、否、必死ではない、必ず死ぬことを許さない21号の、必然の戦いを描いてくれると信じて。


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