ビジュアル7

 女子の受け入れも始めたとはいえ、まだ数人しか女子生徒のいない元男子校の名門学園「鴛舞学園」に、商社に勤めて経営陣に伝のあった叔母の推薦で3人目の女子生徒として編入した、平凡な家の出の渡部千晶がクラスで見たものは?

 パソコンを駆使して世界中の市場で株や商品を取り引きし、瞬間にして数十億円をもうけたり損したりする天才トレーダーの明智優。スーパーカーのランボルギーニ・ルシフェーラを時速300キロで乗り回す、レーサースーツ姿をしたワイルドな風貌の北条健志。学校に通いながらもホストクラブで働き、女性たちに夢を与えて大人気の綾辻光。

 そして、前触れもなく現れては、損をしたショックで明智がばらまいた札束をかきあつめ、「君の悲しみはこれでいやされたのだ」と意味不明のことを叫び、そして消えてしまう謎めいた言動の神嶌崇。そのいずれも超絶が幾つもつくくらいのうちの3にn美少年たちだった。

 「ビジュアル7」とあだ名される、学園でも屈指の美貌を持った7人の少年たちのうちの4人が明智に北条に綾辻に神嶌。その天才ぶり、その美貌ぶりに普通だったら話しかけるどころか、近寄ることだって遠慮するだろう庶民の出の千晶だったはずなのに、なぜか彼らと関わり合いになっていく。

 明智は商社の仕事を通した叔母の取引相手で、北条はランボルギーニの助手席に乗せる重りに千晶がぴったりだと誘い夜の峠を時速300キロでかっ飛ばす。綾辻も千晶には親切で、そして謎の神嶌は友人を傷つけてしまったと落ち込む千晶に心からのアドバイスを贈る、100円と格安の料金で。

 そんな美少年たちと1人の少女をめぐって起こる大騒動、と聞けばどこにでもありがちな、女性が好んでプレーする恋愛シミュレーションゲームなり、少女小説になりアニメーションのタイトルが幾つも浮かぶ。言ってしまえばありきたり。だがしかし、辺見えむという作者が書いた「ビジュアル7」(ビーズログ文庫、560円)は、醸し出す空気がこれらの作品とはどこかが違う。ちょっぴり不思議で、そしてとっても面白い。

 それは「ビジュアル7」に出てくるビジュアル系の少年たちが、どこかの名門の御曹司として苦労もせずに育ち、美貌だけを武器に女性をたらしこもうとしているのではなく、日々を真剣に生きていこうとしている姿が、その言動から見えるからなのかもしれない。株好きの明智は自分の力で運用をしてはお金を稼ぎ、ランボルギーニ乗りの北条も親の金ではなく自分で借りてランボルギーニを直し、走ることに常に真剣に挑んでいる。

 ホストの明智も女性に夢を見させるホストの道に邁進していて、千晶に媚びるところはない。謎めいた神嶌もその名と行動に相応しい役割とちゃんと果たして、千晶を諭し励まし導こうとする。個性的ではあるけれど突拍子もない訳はない、許容できる範囲に才能を持った人たちが、それぞれのスタンスをしっかりと持って千晶に相対するから、読んでいてうっとうしさも嘘臭さも感じないまま、最後まで読んでいけるのかもしれない。

 千晶と誰か1人の恋愛の成就が目的となっていなさそうな部分も、千晶と少年たちの関係をドライでコミカルなものにしていて、ベタついた感覚を浮かばせない理由になっていそう。「ビジュアル7」と言いながらも、まだそろっていないビジュアルたちは誰なのか? そしてどうやって現れ千晶にどう絡むのか? 目下の楽しみだ。

 登場するキャラクターでは、千晶の同級生で見るからに美少女といった風貌のジュリア・チェンが誰よりも良い感じ。描かれる細身で清楚な表情をした湖住ふじこ描く美しく手りりしいジュリアのイラストを、もっと見たい気もする。次巻があれば是非にたくさん描いて欲しいもの。なにより千晶との心地よい関係がずっと続くことが望まれてならない。

 さらにはごくごく平凡な千晶と、恋愛や結婚の対象とは未だなっていない「ビジュアル7」の面々が向かう場所の明示にも、期待するところ大。恋愛関係を成り立たせ、千晶をめぐる恋の鞘当て合戦といった設定を立てづらい状況になっているだけに、どんな展開が待っていて、どんなエンディングへと向かうのかが想像できない。

 それもそれで、どこへ連れて行かれか分からず楽しみではあるけれど、キャラの面白さだけでメーンとなりそうな少女の読者が納得してくれるかどうか。そのあたりを勘案しつつ恋愛要素を混ぜるなり、何か敵を想定した上でビジュアル7人プラス千晶が挑む戦隊物にしていくなり、やっぱり奪い合いからエンディングへと至り華麗な日々へと突入していくネオロマンス的なストーリーを描くなりしていけば、ヒットも間違いない、かもしれないが、さてはて。


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