宇宙人の村へようこそ 四ノ村農業高校探偵部は見た

 帯に「怪作が登場」とあるから、どれほどヤバい作品なんだろうかと恐る恐る手にとって、読んだら普通に面白いSFだった。異文化コミュニケーションというか。未知との遭遇というか。そんな設定を含みつつ、現代の田舎に構築された不思議なコミュニティを舞台にした、ドタバタとしながらも驚きの連続に満ち、そしてちょっぴり怖さも持ったSF作品だった。

 松屋大好という、牛めしとカレーをこよなく愛していそうな名前の作者による「宇宙人の村へようこそ 四之村農業高校探偵部は見た!」(電撃文庫、570円)。シンクタンクで活躍していた母親が、突然仕事を辞めて病気になって先が短いという父親の面倒を見るため、実家がある四之村へ戻ると言い出して、それに着いていった息子の神室圭治は、自分がその村で村長よりさらに高い位の伝統ある名家の出身だと知る。

 実際に通い始めた学校でも、校長から教師から下にも置かない態度で丁寧に丁重に扱われ、半端ない境遇にあることを認識する。聞くとその村に住には不思議な力を持った人が昔から多く住んででいて、主人公の家はその中でもぬきんでた力を持っている8つある家のひとつらしい。だから母親も全世界で活躍できて、なおかつ未だ若いままだというからやっぱり不思議な一族。人間ではないのかとも思わせる。

 だったら息子の方はというと、圭治にとりたてて力は見えないけれど、それでも周囲から名家の坊ちゃんとして持ち上げられる。ひとりを除いて。その一人、祖母井葉子ことハコさんに引っ張り込まれた探偵部で活動していく中で、圭治は四之村ならであの奇妙な事件に遭遇することになる。

 農作業をしていた圭治の前に現れたひからびた死体。傷跡もないのに血が抜かれた不思議な状態の死体がどうしてできたのか。発見された首がねじ切られた死体。犯人は学校の女子生徒と疑われているけれど本当なのか。そんな不思議な事件が次々に起こっては、圭治とハコさんが探偵部として解決に取り組む。

 殺人事件だったら警察の出番ではないかといわれそうだけれど、そこは不思議な村だけあって、それぞれの事件が起こった地域のコミュニティで対処するようになっている。だから、学校で起こった事件は探偵部か、別にある警察部が調査に当たることになっている。2つの部活はライバル関係にあって、競い合っては人材の引き抜きのようなこともする。幾つか起こる事件のひとつでは、圭治がその対象にもなったりする。幸いにして勝ったのは探偵部だったけれど。

 そんな異常な司法状況のみならず、突拍子もない事件が起こったところで住民たちは誰も驚かない。吸血鬼がいたって不思議はないし、首くらいねじ切る力を持った人がごろごろしていたりもする。物語を引っ張るヒロインのハコさんだって、背中から尻にかけて毛が茂っていて、弁当は生肉の塊で、そして半端ない力の持ち主。なぜか全裸で鉄のように固くて重たい大根をあっさりと手刀でたたき切る。

 そんな奇妙な人たちと、奇妙な事件から浮かぶのはこの村の不思議さだ。平家の落人がどんどんと山の奥へと逃げ延びた果てに出来た村、という噂はあるけれど、その割には開けていてどう商業施設も飲食施設も普通に立っている。そして不思議な力のみならず、不思議な心理、不思議な形質を持った住人たちがいる。

 つまり、どうやら昔に宇宙人がやって来て、その子孫たちが暮らしているといった感じ。だから人間離れしていても不思議はないし、圭治とハコさんが行く先々に奇妙な人たちがぞろぞろ現れ、不思議な事件が起こる。その展開は、遠い彼方の宇宙を旅して、いろいろな種族の宇宙人たちと出会う中で生まれるギャップのおかしさなり、意外な展開なりを楽しむ古き良きSF小説のよう。それが宇宙ではなく村レベルで起こっている。

 種族が違っているのに理解し合ったり、なれ合ったりしていないのも面白いところ。ある種族は別の種族に狙われ追い詰められて悲惨な目に遭っている。そこに絡んだ探偵部が事態を解きほぐしていくエピソードでは、種族によって違う認識が浮かび上がり、敷衍して人類にもある民族による認識の違いを突きつけられる。

 同じ人類ではない異種族では、理解し合うようなことにはならない。そんな頑なな偏見にどう挑む? それは読んでのお楽しみ。少しばかりの残酷さはあるけれど、広い宇宙とはそういうものなのだろう。次にいったいどんな種族が現れるか。村に何が起こるのか。現実の世界との絡みはあるのか。続きが知りたい。そしてもうひとつ、松屋大好は吉野家の牛丼は嫌いなのかどうなのか。そこも知りたい。


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