男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。1 
 −Time to Pkay−<上>

 「キノの旅」の時雨沢恵一が満を持して発表した、そのタイトルも「男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。1 −Time to Pkay−<上>」(電撃文庫、590円)というライトノベルを読んだら、本当に男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしている主人公が、年下なんだけれどクラスメイトで声優をしている女の子に首を絞められていた。

 問題は、そういう描写がまずあって、それが各章の冒頭に置かれて少しずつ締め具合が進んでいるような感じになっているけれど、そもそもどういう流れからそうなってしまったのかが、まだ説明がされていないこと。だから物語は、いま現在、まさにそうなっているという状況を示しつつ、そこへと至る経緯が綴られていくことになる、かもしれない。まだ完結していないから分からないのだ、そのあたり。

 まず出会い。僕、という主人公の少年は、理由があって1年間、公立高校の2年生時をまるまる休学してしまって、そこで私立高校に転校してもう1回、2年生をやることになって新しいクラスに行って、そこで自己紹介で自分がダブりだと明かしてしまって気がついた。年上なんだと周囲からグッと引かれてしまっているのが分かったから。

 そんな中で、同級生になった似鳥絵里という少女だけは、僕の顔をみてうわっと驚き、そして週末に彼が学校を休んで上京することになった特急列車の席で、僕に話しかけてきた。まずどうして僕は金曜日に学校を休むのか。その日にどうして似鳥も学校を休んで同じ列車に乗り合わせたのか。追っかけとかストーカーとかいった類ではない。僕には僕の用事があり、似鳥には似鳥の用事があった。それが偶然にも同じだった。

 僕はライトノベル作家だった。それも売れっ子の。中学生の時に応募した電撃大賞で最終選考の手前まで残って、それが編集部の目にとまってデビューした。というより完成度なら最終に残しても問題なかったけれど、中学生という年齢がひっかかった。そこでデビューするとなると受験勉強がおろそかになる。だから受賞をさせず、改稿と受験勉強を並行させつつ高校に合格した翌年にデビューとなることが決められた。

 だから頑張って勉強して、高校に受かりデビューもした僕は、その作品で一気にブレイクして次の作品を書くことが求められた。なおかつアニメ化の話も舞い込んできて時間がとれそうもないと思った僕は、親や編集部とも相談して、2年生の1年間を休学して執筆や作業にあてることにした。

 やめなかったのはやはり高校は出ておくこと、そして大学にも行ければ行くことを求められたから。そして1年間のうちに何冊も本を出し、アニメ化の準備も進めてどうにかこうにか作業を終え、改めて学校に通うことになって編入した先で、作家活動を続けながら毎週金曜日に行われるアニメのアフレコに立ち会うため、学校を休んで上京することになった。

 似鳥はそこに現れた。僕の事情は分かったけれど、似鳥はどうして? それは彼女が声優だったから。それも僕が原作を書いている「ヴァイス・ヴァーサ」という作品に出演している声優だったから。顔合わせの席で似鳥は挨拶に立った僕のことを見ていた。それがクラスメイトとして現れたから驚いた。そして同じアフレコ現場に向かうため、同じ特急に乗った彼を追いかけて来て話しかけたというのが事の次第。

 そこから2人がいい仲になるかというとそんなことはなく、結果として高校生で人気ライトノベル作家をやっている僕は、声優をしているクラスメイトの似鳥に首を絞められることになる。どうしてなのかはまだ分からない。ただその現場で「どうして」と似鳥が言っているからには、なにか裏切られるようなことがあったのだろう。それもまるで仄めかされていないけれど。

 そして描かれるのはひたすらに、ライトノベルというもの、あるいは小説というものを書いてデビューして、それから作家としてやっていくにはどうしたら良いのか、といったレクチャー。まだ子供だった僕が本好きなのを、母親に認められて図書館の隣に引っ越してもらい、そこから毎日のように図書館で本を読んで育っていく。

 そこから僕は、いろいろとお話を想像する楽しさを覚え、それを書き記すことへの興味を持つようになり、母親に頼んでネットに繋がらなくてもいいから執筆に最適なパソコンを買ってもらい、さあ書き始めようとして何も書けなかったことが明かされ、そしてどうすれば小説というものが書けるのかといった話へと進んでいく。

 読めばよく分かるライトノベルの、あるいは小説の書き方。アイディアを持っていたってそれだけで文章にはならないし、だからといってプロットを立てたところで、書き方が分からないとなかなかやっぱり書けるものではない。それでも前に進むにはプロットを作ることは怠らず、そして文章もまずは書き、書いてその中で覚えていく必要があることが、僕の口から似鳥へと語られる。

 会話もキャラクターどうしのコミュニケーションである以上に、読者とのコミュニケーションであることを意識して、普段の会話のようにではなく説明も加えて書くこと、プロットは立てても話の流れの中で変更しても良いこと、書き上がったらやっぱり見直し間違いを正し、梗概というものをちゃんとオチまで含めて書いて添えて応募先へと送ること、等々。それが作中とはいえ成功したライトノベル作家の口から語られ、なおかつそれを書いているのは現役の売れっ子ライトノベル作家というこの2重の安心感が、読む人にそうかこうやってライトノベルって書くのかと思わせる。

 ネーミングに役立つネーミング辞典の紹介とかもあってなるほど、プロでもそういうのを使うのかといったぐあいに、ひとつひとつの描写が勉強になる。その意味ではひとつのライトノベルの書き方入門書であって、それを東京へと向かう列車に乗り合わせた2人の会話というものから書き起こそうとしているものだと言えるけれどもひとつ、気になるのはどうしてそこまで似鳥が小説の、あるいはライトノベルの書き方というものに興味を持っているか。

 そういうお話だから、と言ってしまえばそれまでなのかもしれないけれど、展開のために物語性を犠牲にして、無理矢理展開を作るような作家とは思えない。似鳥の意図が僕の何かを動かして、それが結果として高校生でライトノベル作家の首を、年下でクラスメイトの声優が締める行為へと至らせているのかもしれない。

 そんなあたりもふくめて、いろいろと想像させてくれるストーリーは、さすが人気ライトノベル作家の時雨沢恵一といったところ。作中でも想像する楽しさと必要性はうたわれてるから、勉強ついでに自分なりの展開を考えて、それがこれからの展開に合っているかと見ていくことで、ひとつ自分もライトノベル作家に近づける、かもしれない。

 とはいえ、この巻でほとんど小説の書き方も説明が終わってしまっているから、<下>では僕と似鳥はいったいなにを会話のネタにするんだろうか。「ヴァイス・ヴァーサ」という作品についての詳細な解説を通して、作中にもう1つのライトノベルを盛り込んでしまうつもりか。作中の作品が実はこの物語の世界のひとつで、融合の果てに敵どおしだった僕と似鳥が対決する羽目に至ったのか。

 もっと簡単に今度は似鳥が声優事情を話したり、僕がライトノベルのアニメ化事情を話したりするかもしれないけれど、そうだとしたらこのあたり、時雨沢恵一作品でアニメ化されたものに超絶的なヒット作があまりなく、どこまで事情を語れるのかが気に掛かるところ。カルト的な監督によるカルト的なアニメはあるけれど、あまりにカルト的過ぎて省みられていないから。だからこそ語れる話もあるか。ならば楽しみだけれど、果たして


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