シスターズ
ウルトラマン

 ウルトラマンで、妹だ。

 特撮ファンにお馴染みの巨大ヒーローと、ライトノベルでひとつのジャンルを形成しつつある妹を融合させたタイトルから、不甲斐ない兄をそれでも愛しいお兄ちゃんだと慕い恋する妹が、兄のピンチにウルトラマンへと変身し、宇宙の敵と戦いながらもやっぱり兄とイチャつくラブコメディだと、小林雄次による「ウルトラマン妹(シスターズ)」(PHP研究所、619円)の中身を、想像する人も少なくないだろう。

 実際問題、まったくもってほとんどその通りの内容で、高校を出てからというもの、まるで就職できないニートの兄の翔太を思ってか、妹でまだ中学生のあかりが、天文好きだという自分の趣味も炸裂させて探してきた、近所にある天文台の臨時職員の求人に応募しろと翔太をせっつき、面接にもついていって自分だけが散々喋り倒した帰り道。空から流れ星か何かが落ちてきて、天文台が破壊されて翔太の就職がパーになる。

 いや、問題はそこではない。破壊された天文台がなぜか巨大な怪物になって、翔太たちに襲いかかってきたから驚いた。巻きこまれ死にそうになったその時、天空から来たピンク色をした光が翔太を包んで、その中にいた誰かが彼に合体したいと申し入れてきた。けれどもすぐに撤回された。理由は翔太が男性だったから。そしてピンク色の光の中にいたのが、ウルトラマン・ジャンヌという女性のウルトラマンだったから。

 女性なのに「マン」はないだろう、という突っ込みはなしね。

 そしてジャンヌは翔太ではなく、彼といっしょにいて瀕死の重傷を負っていた、妹のあかりと合体。こうして文字通りのウルトラマン妹が誕生する。しつこいけれど、女性なのに「マン」はないだろうとは言わないこと。そこは「マン」を「人」ととらえて「ウルトラの人」だと思うことでクリアしたい。どう見ても「人」ではないけれど。

 だから問題はそこでもない。強いウルトラの力を得て、正義の味方となった妹が、兄を助けて地球の敵と戦い大活躍をするという、予想通りの展開に向かおうとしながら、どこか脇道へとそれていく展開が、この「ウルトラマン妹」の読んでありきたりに収まらないポイントだ。

 鍵になるのが、ウルトラマン・ジャンヌのどうしようもないドジなキャラクターぶり。正義の味方となって敵と戦おうとするあかりの足を、そのネジがユルんだかのような性格で引っ張りまくる。遅刻しそうだからと変身して、学校まで飛ぼうとするあかりを、たしなめるどころかそのとおりだと変身して、空を飛んだらあまりの高速ぶりに日本を飛び越し、南の島まで連れて行っては、カラータイマーの時間切れだからと変身を解除。エネルギーのチャージ完了まで、一昼夜ほど戻れなくしてしまう。

 だいたいが、地球には研修に派遣されて来たというのが嘘らしい。へろへろな戦いぶりを見るにつけ、とてもじゃないけれど他の星にヒーローとして派遣される実力も、将来を買われての抜擢もあるとは思えない。にも関わらず、地球にひとりでやってきて、あかりと合体しては繰り出す大騒動。ジャンヌとは違って、こちらは光の国から正式に派遣されてきた、もう1人の女性型のウルトラマン、アムールからはおかしいと言われ、すぐに帰れと言われながらも動じず、暖簾の腕押しとばかりに押し切って、そのまま地球に居座ってしまう。

 どうしてそこまで、というところに、翔太を慕うあかりにも似た心情が、ジャンヌと重なって少しばかりの同情を誘う。でも少しだけ。頭部に備え付けられた、ジャンヌ・スラッシュなる武器をブーメランよろしく投げてはは手元に戻せず、刺さったトラックを追いかけて走り回るドジっ娘ぶりを発揮する。

 そんなジャンヌにいったい地球が守れるのか、とった疑問も浮かぶけれど、そこは努力と成長の甲斐あって、次から次へと現れる、怪物やら人の欲望を引っ張り出しては破壊へとつなげる異星人やらを相手に、勝負を挑んでどうにか勝利。そして晴れて宇宙へ戻ろうとして、そして……。やっぱりジャンヌはジャンヌだったということで。

 ともあれ「ウルトラマン」の要点をしっかり押さえながらも、読んで笑える作品へと仕上げた「ウルトラマン妹(シスターズ)」。妹の側面から実にそれらしい作品ではあるものの、特撮の側面から見たらどうかといった懐疑には、生みの親の円谷プロが監修にあたっているんだと感じて納得を誘おう。だいたいが怪獣たちがコントをする「ウルトラゾーン」がテレビで放送されて、世代を問わず大人気となっている現代。それに比べればよほど真っ当な変身ヒーロー物だ、「ウルトラマン妹」は。

 まだまだ居座るジャンヌをパートナーにしたあかりが、これから何をしでかすか。「地球は狙われている」と言われるくらいに人気の星にやって来る異星人もまだまだいそうで、それらの悪巧みを相手にどんな戦いを挑むのか。翔太の兄としての面目は保たれるのか等々、興味のポイントも幾つか引きずるなかで、続く展開に妙な期待をしてしまう。

 でも次こそはドジでなく真っ当で、そして可憐な「ウルトラマン妹」の登場を。


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