twink☆twink
ティンク☆ティンク

 都会の喧噪に追われる魔女たちの逃避行を通して、人間が失おうとしている自然の有難みとかを伝える話かと思ったら、人の死と再生なんかを描いた割にシビアに死な展開になって驚きつつも、感銘を受けた「森の魔女たち」(新書館、520円)でその名前を知った松本花。目がおっきくって口もおっきいキャラクターたちの絵柄と、動きのテンポと話の間合いに惹かれて気に入り、以降関心を持ってはいたものの、詳しくチェックする所まではいかなかったら、さらに素晴らしい話を描いてくれていた。

 その話、「ティンク☆ティンク1」(新書館、720円)はたぶん南方、バリとかブルネイとかモルジブとかいった感じを持った「海と空の間の小さな島」を舞台に繰り広げられる幻想譚で、文明とかないし科学の恩恵とかも得に受けてはないけれど、大地と空気と水、太陽と月と星星の恵みをたっぷりと受けて生きる島の人々の、そうしたものに対する感謝の気持ちがいっぱいに溢れていて、読みながら心が嬉しくなる。

 兄弟とも、双子とも友人同士ともとれる少年のショコラとバニラがまず冒頭、登場しては毎日が夏休みって感じで走り回ってる場面から物語は幕を開ける。王宮の奥めいた場所にいて、寝過ごしたショコラに「忘れちゃったの? パレエドの号令かけるんでしょ?」と言うバニラの言葉に、想像するのは島を治める王族の王子様、って設定。訊ねて来る王様も、巫女様も2人に気軽な口調で話しかけているのを見て、ますますそんな思いを強くする。

 でも違ってた。すぐに明らかになったのは「双子の神」という存在。ショコラとバニラ、2人はそれぞれに太陽と月、誕生と死を司る神様で、巫女様と王様を通して島の人々に豊饒と安寧をもたらしていた。姿を見られるのは王様とまだ少女の巫女様くらい。「君達あっての私達だから」と2人を敬い民に代わって贈り物をし、悩みがあれば相談にものって島と島の人々を良い方向へと導こうとしている。ショコラとバニラもそんな王様巫女様と島の人たちの祈りに応えて、生まれた子供に名前を与え、死んだ女性に癒しのキスを贈る。

 どう見ても遊びたい盛りの子供の姿と性格で、生まれた子供の名付けに一晩かかって悩むショコラとバニラの姿、死の旅路へと出向く魂を両性具有の魔人が誘(いざな)ったそのケアに現れ、「良い夢を」と言葉を贈るバニラの振る舞いを通して、神様達に見守られている島の人たちの暮らしの素晴らしさが伝わって来て、そんな神様たちを抱き得る純粋さを持った島の人たちの生活や心情が羨ましくなる。

 かつて日本にも年がら年中神様の存在を意識し、正月にお彼岸に節分にお盆に大晦日に感謝を捧げ心豊かになっていた時代があったけど、世知辛くも合理性を追究する今となっては面倒臭さはなくなったものの、すがり心傾けつつもいたわられ心寄せられる心地よさを失ってしまった気がして来る。サンタクロースの来訪を受けたりし丁髷姿の蒲公英神を助けたりと、洋の東西がごっちゃになっているけど共通するのは信じる気持ちの暖かさ。良い話を読んだなって気になるし、そんな話がまだまだ続く嬉しさに胸が踊る。

 やんちゃな子供の姿をしているだけあって、時々は無茶もするし子供らしい悩みも抱いて惑ったりするショコラとバニラ。とるにたらないことで”兄弟ケンカ”みたいなことも起こしたりするけれど、陰と陽の関係にあって、お互いを求め欲している2人の間にある絆を思い起こし、また周りが絆を思い起こさせるためにいろいろとサジェスチョンを贈る様に、神様だ人間だという部分を離れて、1人で生きているんじゃない、大勢の関係の中でイカされているんだという思いを改めて抱く。

 父親を知らずに育ち、少女の頃から巫女としてショコラとバニラの相手を務める巫女の可愛さ健気さも見どころ読みどころ。どこまでも純粋で快活なショコラとバニラ、2人の神様を向こうに人間の生き成長していく上で避けられないさまざまな苦しみや喜びを、一身に背負って体現してる。感謝もされるし恨まれもする、その立場は巫女なんだし人間なんだから仕方がなんだろうけれど、せめてあと少しだけ、少女としての楽しみを味わわせてあげて欲しい。


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