タツモリ家の食卓
超生命襲来!!

 夢である。この平凡過ぎる日常をかき乱してくれるかの如くに、別世界からの来訪者がひとつ屋根の下で暮らすようになるなんてことは、金輪際起こるはずのない夢物語である。重ねて言えば、夢にだって滅多に見ることのできない願望で、だからこそ人は夢の代わりに漫画に、アニメに、小説に世界を作っては夢物語の世界を描くのである。

 例えば鬼娘がいた。そのうちに小鬼のガキもやって来たが無視しよう、叩くと火を吹くから扱いに注意が必要だが。あるいは魑魅魍魎を操る娘がいた。歳は2万を越えてはいるが見た目は若いから許す。ついでにお姫さまがいてその妹がいてギャラクシーポリスがいてマッド・サイエンティストもいたりしやがって、何とも羨ましい身分だことよのう、天地、いつか殺す。

 ほかにもそうそう、ベルなんとかって女神さまもいたっけか。ゲーム雑誌の編集部で働くトルなんとかって魔女もいたよなあ。最近だとベスパに載ってリッケンバッカーのベースを担いだ姉ちゃんがパン屋の家にやって来たって例もあったねえ。そんなこんなで人が次々と非日常を創造してはその喧噪に感情を移入して、我が身の当たり障りのない日常の連続から、わずかな時間であっても抜け出たいと思うのは、本能のレベルでやむを得ないことなのである。

 という訳で、古橋秀之の「タツモリ家の食卓 超生命襲来!!」(メディアワークス、510円)は、例え過去に類例がいくらあろうとも、また未来に同類がいくら描かれ書かれようとも、遺伝子レベルで正しいと認識すべき小説であり、反射レベルで見たら買うべき小説である、ということはつまりはそういう小説なのである、説明終わり。

 いや、終わってしまっては訳の分からない人もわずかながら出そうだから、もう少しだけつけ加えておこう。舞台は地球、あたり前だな。平凡な地球人のそれも日本に住む高校生の家に非日常が訪れてこその願望充足夢成就小説、そんなお約束どおりに主人公の龍守忠介は高校生で、外国の天文台に出稼ぎに行っている科学者の両親と離れ、妹の陽子とふたりで両親の留守を守っている。

 とはいっても、脳天気な兄の忠介は生活に一切の気苦労もなく、向かいのアパートにいる犬のジロウマルを水洗いしては「犬が嫌がってるじゃない」と妹に叱られ、犬を散歩に連れていった先で3歳くらいの女の子を拾っては妹に「警察に連れていきなさい」と怒られる、当人にとっては愉快だけど妹にとってはそれなりに慌ただしい日々を送っている。

 と、ここまでなら平凡な日常にさしたる変化もなく、妹とふたり暮らしってあたりにちょっとばかりの羨望を駆り立てられる程度だったのが、拾った3歳くらいの女の子が、ちょっとばかり普通じゃなかったことから、日常にあえぐ人たちにとって夢のてんやわんわな非日常が始まったのであった、以上。

 うーんもうちょっとだけ補足。3歳くらいの女の子に見えない「ミュウミュウ」を簒奪しようと、宇宙の彼方から方や銀河連邦特務監査官のカーツ大尉が来訪し、こなた戦いを繰り返しながら宇宙を突き進むグロウダイン帝国の皇女さまにして全身が武器、というか自身が文字どおり”鉄砲玉”なバルシシアが襲撃しては大気圏上空であれやこれやの大乱戦。共倒れとなったものの「ミュウミュウ」を狙って、タツモリ家のひとつ屋根の下に暮らすことになったのであった、完。おいおい終わってどうする。

 まあ、「リヴァイアサン」なる生命体と「キーパー」なる存在とが繰り広げる戦闘の圧倒的なスケール感、波動砲もメガ粒子砲もダイダロスアタックさえも陳腐に思えるくらいに驚天動地なグロウダインの戦闘方法、そして愛情が世界どころか太陽系を救ってしまう展開を見せてもらって、これで終わっても存分に堪能できたことは確か。脳天気な忠介の脳天気ぶりを見事に現した日常描写、性格描写の確かさや、150光速(って何?)のスピード感にあふれた戦闘描写、人類の存亡がかかった展開の緊迫感と、それをちょっとだけ緩めて笑わせる攻守の妙も十二分に楽しめる。

 が、せっかく幕を開けた夢にだて滅多に見られない非日常、おまけに一緒に暮らすのが、美少女なんてそれはそれで羨ましいけど過去に幾つもの類例がある「同居もの」とは一線を画した、「だっしゃあああああッ!!」というかけ声も勇ましい鉄拳皇女に猫に3歳児、なんてヒネクレまくりな奴等だったりするから、いったいどんな非日常が繰り広げられるのか、でもって新しく来る奴がいたとしたら今度はどれくらいヒネクレまくっているのか、といった興味が湧き出して辺り一面水浸し。

 なのでまあ、放っておいても本能レベル、遺伝子レベル、反射レベルで人間の購買欲をくすぐる小説なのは承知しつつ、万難を排して続巻たる「タツモリ家の食卓2 恐怖の精神寄生体(仮)」が世に問われ、湧き出す興味をスポンジのように吸い取ってくれるよう、購買欲を上回るような物欲なり性欲なり食欲はこの際後回しにして、「タツモリ家の食卓 超生命襲来!!」買って読んで泣いて笑って喜ぶのだ。


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