タデウシュ=カントル
展覧会名:タデウシュ=カントル
会場:セゾン美術館
日時:1994年11月27日
入場料:1200円



 知らない人の展覧会に入る時、僕は大変な勇気を必要とする。お金を払ってそれに見合う感動が得られるか否か、もったいないなんて思っているから、小市民なのだとつくづく自分が嫌になるけれど、でも仕方がない。お金を取って開いている展覧会なのだから、それだけのものを僕に与えてくれなくては。

 で、タデウシュの展覧会なのだけど、これはなかなか感動した。日曜美術館でさわりだけでも見てから行ったのが幸いだったのかもしれないけれど、実際の目で見た限りにおいても、ピカソしていてホックニーしていておもしろかった。

 最初の部屋にあったのがピカソっぽいシュールレアリスムの作品群。キャンバスに黒い輪郭で再構築された男女が描かれている。不安定そうで、でもしっかり画面の中に安定してしまっているそれらの対象物を見ていると、人間という生き物はどうバラバラにしても、やっぱり人間なのだということがあからさまになる。バラバラにしたって男は男だし、人間は決して牛でも馬でも豚でもない。

 キャンバスから飛び出ようとしている一群の絵は、フランク=ステラが描いた作品に近い感じ。でも作品の意図は違っていて、ステラはその形が書きたいと思ったから、キャンバスの形をねじ曲げて拡大した。でもカントルは、四角いキャンバスという限定された空間を一度想起してから、そこから脱出していこうとする人々を描いているのだから、二次元から三次元への脱出、非現実から疑似現実への逃避を試みる人々を、けれども決して成し遂げられない、非創造物の悲しみを僕は逃げられない彼らに感じた。

 マネキン達の表情を眺めていると、僕は彼らが今にもしゃべりだ思想で瞬きしそうで、怖くて、でも楽しい気持ちになってしまう。瞼は動かさないの、まつげは揺れないの。でもマネキンはやっぱりマネキンで、僕のまなざしを決してそらそうとせず、決して僕を睨もうとしない。人見知りのする僕には、マネキンの恋人が似つかわしいのだろうか。


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