スキップ!!! 僕と彼女が見つけた戦術。

 文庫じゃない。そう見てまず思ったライトノベルの新レーベル、SAMURAi文庫は四六版並装の単行本で、電撃文庫とか角川スニーカー文庫とかいったライトノベルのレーベルとはまるで違った体裁となっている。

 箱から出せばイラストも描かれていない、柔らかい表紙の講談社BOXよりも、そして表紙はイラストながら、どこかペーパーバック感が漂う星海社FICTIONSよりも、SAMURAi文庫の方が単行本っぽさでは上を行く。それをライトノベルの文庫と果たして言って良いのかは迷うところだけれど、そもそも文庫とはと考えると、別に版形で分けられるものではない。

 名著古典の類を安価に定期的に届けようと編まれた叢書が、日本でいう文庫だし、もっと原点に返るならば、まとまったコレクションのことを文庫という。金沢文庫とか青空文庫とか。だからSAMURAi文庫が電撃文庫と同様に文庫と名乗り、そしてライトノベルと名乗ってもそれに異論は挟めない。そういうものかと受け止めるしかない。

 その上で判断するのは読者。これは電撃文庫やファンタジア文庫のように面白いか。これからも読んでいきたいか。答えはイエス。SAMURAi文庫の第1弾として登場した梅村崇の「スキップ!!!〜僕と彼女が見つけた戦術。〜」(サムライ・クリエイティブ、1200円)は、読んで楽しくためになる青春スポーツ物語として、若い層から年輩までも含めて受け入れられるだけのポテンシャルを持っている。

 テーマはカーリング。そして四字熟語。何だそれは? 実際にそうなんだから仕方がないとしてまずはカーリングについて。氷上に漬け物石のような丸い何かを滑らせて、それをほうきで掃いていくという競技。違うって? 傍目にはそう見えてしまうから仕方がないけれど、この小説を読んでいけば、その石が何で、ほうきを使って掃いているのは何かが分かるようになっているからご安心。

 さて物語。学校でも秀才の玉村彰という高校生の少年が、同級生から依頼されて彼の妹の家庭教師をすることになって、の妹がいる場所を尋ねていったら、彼女は仲間たちといて、同じカーリングのクラブに入っていると聞かされた。どんな風に競技をするのか、生で見てよと誘われた彰は、週末にカーリングの競技場に出向いてそこで、友人の妹や仲間たちが試合に臨む姿を観戦する。

 観客席からその試合運びを観察した彰は、数学が得意なこともあってか、ゲームの流れと駆け引きの仕組みがわかってしまい、試合後にああしたら良かったこうしたら勝てたと言いったら、倉橋あかりというスキップをしていた少女に怒られた。言うは易いけれども実際にやるとなるどどれだけ難しいのか。その場その場で的確な判断を下していくのがどれほど大変なものなのか。そんな労力を否定するような彰の言動に、あかりが怒ったのも無理はない。

 けれども、そうとは知らない彰は自分がなぜ怒られたのかも分からず、だからどう謝ればいいのかも分からず、それを知るためにカーリングに近づこうと同級生の妹とランニングをし、その先で怒ったあかりと再会して、カーリングを試してみればと言われて試したらこれがやっぱり難しかった。

 時々刻々、一投ごとに変わる局面でどんなプレイを選ぶべきなのかを瞬時に決断しなくてはいけない。事後に結果だけ見てああすれば良かったと言うのはなるほど簡単なことで、現場に立ってストーンを投げる身になればまずは判断が迷い、そして技術が伴わないといけないのだと彰は身を以て試して気が付いた。

 それを知ったことで、どうにか仲直りをした彰とあかりは、あかりが先の対戦でも敗れ、そしてずっと勝てないでいるライバルチームを相手に、どうすれば勝てるのかといったことを考えるため、2人でカーリングの研究に没頭する。あかりは自分の判断について理解を深めつつ、彰の戦略も理解に努めて自分の幅を広げていく。そして挑んだ勝負のその行方は?

 それは読んでのお楽しみ。読めばなるほどカーリングというスポーツを挟んで交わされる、少年と少女の情報と感情がやがて恋心へと変わっていく青春の様を楽しめるし、カーリングというスポーツで、刻々と変化するそれぞれの局面に、いったい何が必要でどうすれば勝てるのかといったことが薄ぼんやりながらも見えてくる。

 2014年2月に繰り広げられたソチでの冬季五輪でも、女子日本代表の試合が毎回のように放送されて、大勢が興味を持ったカーリング。その面白さと奥深さを改めて知る上で絶好の1冊であり、そうでなくても何かに打ち込む少女の姿にまみえることで、今をもてあましている怠惰な心を入れ替えて、がんばろうという気になれる青春ストーリーだ。

 そして四字熟語について。いったいどういうことかと、語る字数はすでに尽きたのでそれも読んでのお楽しみということで。


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