スコップ無双 「スコップ波動砲!」( `・ω・´)♂〓〓〓〓★(゜Д ゜ ;;;).:∴ドゴォォ

 「スコップ無双 「スコップ波動砲!」( `・ω・´)♂〓〓〓〓★(゜Д ゜ ;;;).:∴ドゴォォ」と正式には書くらしいけれど、そんなものいちいちキーボードでは打てないので、略して「スコップ無双」(MF文庫J、600円)を読む。スコップが無双していた。それともショベルが無双していたとでも言うんだろうか。

 植木の植え替えに使うような片手で持てるスコップではなく、足で踏んで先端を地面に突き刺し、土を掘っていくあのスコップを使って、山でずっと宝石を掘っていたアランという男が100年目に、スコップの先からビームを出せるようになっていたことに気がついた。

 もっとも、岩に10センチ程度の穴を開けるだけでは宝石の採掘には役立たないと気にせず、そのまま掘り続けて数百年。ドワーフの血が入っているため人間よりは長い寿命を持っていても、さすがに平均の倍にもなっていたアラン。おかしいと思い、そういえばビームを出したあの辺りから老けなくなったと気付き、だったらとスコップからビームを売ったら何と直系1メートルの極太ビームが岩を消し去った。

 これなら宝石掘りに役立つと、使ってひたすらに掘り続けていくとビームはさらに太くなり、曲げられるようにもなりバリアまで張れるようになった。一方で、掘り続けた穴は遂に地獄に到達して、現れた悪魔たちが襲ってきたけれどそれらをビームで退け地獄も制覇したアランが宝石を掘り続けて1000年目。実に256年ぶりに外に出て、掘り出した宝石を売りに行こうとしたアランは、そこで襲われている女性をスコップからビームを放って救出する。

 こうして王女リティシアと出会ったアランは、彼女が悪魔に王位を簒奪されそうになっていると聞き、助けようとして奪還に必要なオーブを探し求める旅をいっしょに始める、その途中でスコップから波動法を出したり、ばったばったと敵をなぎ倒したりするアラン。あまりの活躍にお姫さまはスコップに心酔し、宗教まで始める始末だけれど、当の鉱夫は気にせずリティシア姫さまの女騎士カチュアも引き入れ旅を続ける、という話。

 とてつもないことが起こっている。それがスコップという身近な道具によって起こされているというギャップがまずは最初の笑いどころ。なおかつスコップという、実際に使う機会はあまりないため、何がどこまで出来るのかを体感では図りにくいものによって起こされていることで、兆にひとつの可能性めいたものを期待させて、手にスコップを持ってみたいと思わせる。

 もちろん、現実的にはスコップだったらビームが出せるといった確実性は保証されていない。それでも、武器とかいったものからはズレて、ヌけた感じもあるアイテムとしてのギャップ性と、それゆえに醸し出される可能性が読む人に共感を与えて引きつける。自分もスコップを持ってみたいと思わせる。構えてもビームは出ないけれど、振り回せばゾンビくらいなら倒せそうだと思うだろう。宝石掘りには不向きでも、がっこうぐらしになら1本、あつらえておきたい。

 物語では、ものの数時間でエルフの城を作り、近寄れないように取り囲む壁も作ってのける技をアランは見せる。これのどこが魔法じゃないんだと思わないでもないけれど、1000年も修行をすればそれくらいは日常的に出来るようになるのかもしれない。未だかつて1000年、スコップで掘り続けた人間がいないから分からないだけで。はいカチュア。「そんなことあるか!」

 そうしたアランのスコップの偉業に染まって、裸にスコップを身につけ体を捧げようとする行動すら見せるリティシア姫の奇矯さがまたユニーク。人はすごいものに触れるとネジがとんでしまうものらしい。そうした姫の奇矯を奇矯と知っているあたりに、アランの真っ当さが見える。だったらそもそもビームが撃てるか、波動砲が撃てるのかと自問して欲しいのだけれど、そういうものだと思うしかないんだろう、実際にそうなんだから。

 リティシアが悪魔を退けるために必要なオーブを集める旅路で竜を倒し、新しい仲間も得て信奉者を増やしながら進んでいくアランたち一行。この先もスコップ凄い技で戦っていく展開が楽しめそうだけれど、エスカレーションが過ぎれば驚きが呆れに変わる可能性もある。それを呆れさせない驚きへと導く技と展開がきっと待っていると信じて続きを待とう。出るのだとしたら。

 それにしてもMF文庫Jとつちせ八十八、「ざるそば(かわいい)」に負けず凄まじい変態的作品を送り出してくるものだ。次は何だろう。シャベルか(それはリバーシブルで表紙で実現済み)。





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