スクールジャック=ガンスモーク

 テロリストに襲撃された学校にいた冴えない少年が、実はとてつもない凄腕の傭兵で、テロリストたちを叩きのめして撃退し、そして対峙する首謀者がかつての傭兵時代の恩人だったというシチュエーションの、それ自体はどこかで読んだこともあるようなないような気がしないでもないし、「ダイ・ハード」シリーズの変奏といった見方もできる。

 ただし、そこに美少女を入れてロボットを混ぜ、単なるテロリストではなく謀略によって冤罪に陥れられた元軍人といった設定を乗せることで、ぐっと重厚な雰囲気を持った作品に仕上がる。第11回小学館ライトノベル大賞で優秀賞となった坂下谺の「スクールジャック=ガンスモーク」(ガガガ文庫、611円)はそんな感じの物語だ。

 機巧外骨格というからスケルトニクスようなものを想像したら、ほとんどモビルスーツでつまりはロボットのようなもので、それに乗って戦うことが普通になりつつある時代。機巧外骨格の搭乗者を養成する学校があって、そこでエースと呼ばれている花枝連理という少女は、過去にテロに遭って両親を失ったところを、情報軍という機巧外骨格を操り戦う部隊の最初の任務によって助けられたことがあった。

 感動して自分もそんな機巧外骨格乗りになりたいと、花枝連理が進んだのが搭乗者を養成するための学校。そこに若手の整備士として仕事に来ていた黒宮凜児という少年は、実はかつて情報軍に所属して戦っていたことがあった。ところが、戦いに出向いた先で一般市民が大勢虐殺された街に入り、目にした悲劇がなぜか情報軍の行ったことだと糾弾されて、情報軍は世間からつまはじきにされる。

 凜児は情報軍を抜けて機功外骨格を整備する会社に入ったものの、そこでかつて乗っていた機体が展示してある搭乗者養成学校に行き当たって、難度も通っていたりもした、そんなある日。その学校がテロリストの襲撃を受ける。ちょうと来賓としていたのが、どうやら情報軍を嵌めたらしい陸軍の将軍で、復讐のためにその命を狙ってかつて情報軍に所属していた者たちが襲撃した。その中に凜児が所属していた部隊の上官、防人護道が入っていた。

 意図せずに起こった師弟対決。元の上官は自分たちを追い詰めた世間に対する復讐めいたものを起こしたいと考えていた。けれども凜児は自分を追い詰めた世間よりも、世間に弓引くかつての同僚たちたちを許せなかった。そんな2人の戦いに加わったのが、大半の生徒が体育館に監禁される中、テロリストの手を逃れていた花江連理。彼女こそが凜児や護堂が最初の任務で助け、自分達にも出来ることがあると喜ばせたテロの被災者だった。

 因縁を持った3人の激突は、謀略によってつまはじきにされる悲しみがあり、だから世間に対して復讐しても構わないのではといった誘惑があり、けれども正義のために戦った者として犯罪は罪でありテロは許せないことだといった信念を貫く強さがある。ゲリラ戦的に戦う方法や機功外骨格を操っての戦いの迫力などが楽しめる、そんなストーリーになっている。

 凜児が情報軍時代に乗っていた<夜號>と呼ばれる機巧外骨格には秘密があって、搭乗者の精神を縛ってでも戦いを勝ち抜くような機能が積み込まれている。それが発動して怒る暴走が誰かを傷つけてしまったことを、凜児はずっと心に傷として抱えてて二度と機巧外骨格に乗ることはないと決めていた。とうより乗れなくなっていた。

 そんなトラウマをどうやって乗り切っていくか、といった挑戦があって越えていくための展開もある。自分をしっかり持つこと。そして絶対にブレないこと。そんなことを強く自覚させられる展開だ。もうひとつ、凜児を情報軍の時代から支える逢瀬と名付けられたAIが、機械的ではなく合理的でもないところが面白い。コンピュータでありながら人間的。そんなものが存在するのかはともかく、自分を知ってくれるパートナーの存在が人間にとっては大きな意味を持つことも分かる。

 そこに加わってくるだろう花枝連理という少女。とうより彼女が通う搭乗者養成学校に転入してきた凜児と花枝連理との関係が、逢瀬も入れた三角関係になっていくのかも興味の向かいどころ。もちろん、それ以上に再び機巧外骨格乗りとなった情報軍も元エースが、どういった活躍を見せてくれるのか、それは学園の中だけに留まらず国を揺るがすような事件の中でのものになるのか、そこに花枝連理はどう絡むのか、続きがあったら読んでみたい。


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