出光コレクションによるサム・フランシス展展
展覧会名:出光コレクションによるサム・フランシス展展
会場:東京都現代美術館
日時:2003年4月12日
入場料:1200円



 世界では舟越桂より遙かにメジャーな人のはずなのに、同じ「東京都現代美術館」で開催されている「出光コレクションによるサム・フランシス展」に足を運ぶ人の比率を見、前に開催された「村上隆展」の大混雑ぶりとの比率を見るにつけて、現代美術の作品展が”興行”として成り立つか立たないかを決める要素は、世界でメジャーとかいったものではないことを思い知らされる。

 とは言え見ても日本人的に感動できない類のアート作品だったらまだしも、サム・フランシスに関してはその圧倒的な美の探求ぶり、生み出した作品が持つスケールの大きさを目の当たりにしさえすれば、舟越桂とはまた違った感動をそれこそ存分に味わえること確実だ。

 例えて言うなら舟越桂の彫刻から受ける、表面的な静謐さから内省的な世界へと思いを抱いて浮かべる感情とは対極の、内面を存分に解放することの楽しさ、素晴らしさを覚える。

 初期こそ小さいキャンバスに色をいろいろ塗り重ねた、どちらかといえば枠の内側へと見る人の気持ちを向かわせる作品が中心だったサム・フランシス。けれども時代を経るに従って、だんだんと作品が大きくなり、それに伴って使われる色彩も増えて画面も賑やかになって、不思議な存在感を放ち始める。

 「セイル・ペインティング」というシリーズは、画面を白で固めて四方の縁にほんの少しの色彩を重ねる作品で、広大なキャンバスサイズの圧倒的な部分を占める、白という色の持つ無色故の存在感に、見る人を気づかせ息を飲ませる。

 1970年代前半の「フレッシュ・エア・ペインティング」と呼ばれるシリーズで、10メートル前後の巨大な白いカンバスのところどころに色彩を撒き、その巨大さによる圧倒感、スケール感の中で浮遊する色彩が、生命観を放ち躍動感を見る人たちに感じさせて心を沸き立たせる。

  圧巻が「タイアイシャ」というタイトルの巨大な画。86年に描かれたこの作品では、彩の自由さがさらに高まり、静謐だった宇宙に光が起こりカオスから銀河が生まれ分裂し成長していくパワーを感じさせてくれる。

 仕切りもない巨大な展示室の壁一面に並んだ、同じ時代の作品群に囲まれてひとり、佇んで生まれ育ち輝くサム・フランシスの宇宙に、泳ぎ溺れ漂い彷徨う感覚を味わうこの至福、この贅沢。「東京都現代美術館」に気軽に行ける場所に住んでいて、本当に良かったと思わされる。

 こういう作家に育っていくのかどうかも分からなかった1950年代末に、才能を見出し作品を買い親交を深めた出光興産の創業者、出光佐三の炯眼にはただただ恐れ入るばかり。中央部分が白く抜かれた「ホワイトライン」の1枚を、主が留守だったアトリエで見てインスピレーションを受けたという逸話に、アーティストの本質を見抜く目の確かさ、鋭さを感じる

 名のある作家の作品を半ば名誉欲から、半ば騰貴目的で買いあさった後の経営者たちと比べて、ブリジストン美術館を作った石橋正二郎といい、この出光佐三といい昔の経営者には商才のみならず偉才の持ち主が多かった。ITでしこたま設けた金で、高級乗用車を乗り回すばかりが金の使い道ではないのだよ、若手経営者諸君。




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