再就職先は宇宙海賊

 表紙に描かれているキャプテン・ハーロックのような宇宙海賊のコスチュームを身にまとった娘がいったい、いつになったら出てくるのかと、読み始めてから読み進めていく中で考えてモヤモヤとしていたけれど、中盤からしっかりと登場しては重要な役回りを担ってくれるから、少年が主人公であっても脇役の美少女を表紙に描くこともあるライトノベルのメソッドは、この場合はあてはまらないととりあえず言っておく。

 だったら誰が主人公かと言えば、鷹見一幸の「再就職先は宇宙海賊」(ハヤカワ文庫JA)でメインをはるのは表紙でも下の方、キャプテン・ハーロック娘の足下に小さく描かれた宇宙服を身にまとった3人組。もちろん男でそれもおっさんたちというから、表紙にそのまま描かれなくてある意味よかったかもしれない。

 だったら活躍しないかというとむしろ逆。地球の人類にとってとてつもない大発見をする。1万年とか8000年とか昔、まだ地球に文明が生まれていなかった頃に地球圏に宇宙人がやって来ていたことが分かった。月面を探査中に見つかった地下空洞から発見された痕跡から推察するなら、帝国と称されるらしい宇宙人たちがいて、恐竜タイプの敵勢力と争っていたらしい。

 そして、先着した地球圏を我が領土と主張するために、駐在員なり駐留軍なりといった勢力を月に置いていたらしい。発見されたのはその名残。とはいえ化石のように使えないものではなく、地球文明を遙かに上回るテクノロジーが使える状態で捨てられていて、エネルギー不足を解消するバッテリーや重力制御の技術、亜高速で推進する小型の推進機と人類にとってのオーバーテクノロジーがもたらされた。

 当初は既得権益にあぐらをかいた勢力がオーバーテクノロジーを隠蔽しようとたものの、もたらされる福音の大きさから人類は調和を選び平穏を望んで世界はまとまり、宇宙人の技術を利用する方向へと進んでいった。地球は発展して宇宙へと出て行き、そして月意外にも捨てられているはずの宇宙人の遺産を探す冒険が始まった。ゴールドラッシュだ。

 手に入れれば一攫千金のオーバーテクノロジーを狙い、トレジャーハンターたちが宇宙へと出て行く状況に、左前の中小企業の社長も乗っかり3人の社員をポケットマネーで宇宙へと派遣した。木戸博之ことヒロユキ、佐々木則行、イギリス人のウォルター・ゴードン・ウィルソンの3人は小惑星帯へと出向くものの、務めていた会社がつぶ社長は逃げだし哀れ3人はほとんど無一文の状態で小惑星帯に放置される。

 金が入らず食料もつきかけた3人だったけれど、小惑星帯で大逆転のネタを見つける。それが帝国の遺産の宇宙船だった。掘り出し届ければ一攫千金。とはいえ居座ったままでは水も食料も空気も尽きて干からびるので、宇宙船を掘り出し動かして救援が得られる場所へと向かおうとする。途中、腹を空かせた3人は通りがかった客船に食料とナースを求める。それによって彼らの立場は激変する。

 まさに驚きの展開。慌てつつ対策を練った3人が選んだのは……といった状況から、海賊との関わりが生まれ、大企業の令嬢だったものの海賊のコスプレが好きそうな女子(これが表紙のキャプテン・ハーロック娘だ)も加わりとある稼業をスタートさせる。それは笹本祐一の「ミニスカ宇宙海賊」シリーズで加藤茉莉香ら弁天丸のクルーが時折行う稼業とも重なるもの。平穏な時代に生きる人間の退屈はスリルを求めて止まないということか。

 もっとも、すべてが上手くいくどころか最初から躓くところが素人たち。本格的で本質的な海賊と地球連邦の治安部隊との戦闘に巻き込まれつつ、逃げず挑んで突破していく姿が格好いい。宇宙に捨てられてから蘇って来た苦労を鬱屈に変えず前向きに挑もうとするそのスタンスこそが、キャプテン・ハーロック娘の衣装を改造して身につけた者にふさわしい。日本のポップカルチャーに通底する人情であり任侠とも言えるのかもしれない。

 そんな最悪のトラブルを通り過ぎた先、ヒロユキや佐々木、ウォルターとそしてナスリチカなるキャプテン・ハーロック娘の再結集によって本格的に何かが始まりそう。人類以外との交流すら。鷹見一幸によればこの物語は1巻物の読み切りだそうだけれど、売れれば続きが書かれることもないとは限らない。むしろ書かせるし書いてくれるだろうと願いつつ、それで地球圏が粛正者の総攻撃を食らう大戦争へと至ることは別の物語にまかせて、大宇宙時代の中でひょんなことから“宇宙海賊に再就職”した奴らがどのような活躍を見せるのかを想像していきたい。


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