RAIL WARS! −日本國有鉄道公安隊−

 2011年のゴールデンウイークに、秋葉原のUDXで開かれた「絵師100人展」に出品していた絵師のひとりで、その絵柄、そのモチーフで多くの目を引いたバーニア600。どこかの田舎にある木造の駅で、2人の少女が発車までの時間を過ごす絵から漂う、そこはかとない懐かしさと、そして鉄道への思いが、美少女絵だからと嫌う人にも強い印象を与え、引きつけた。

 そのバーニア600が、イラストを寄せたライトノベルもやっぱりというか、鉄道がテーマになった作品だった。豊田巧という人の「RAIL WARS!−日本國有鉄道公安隊」(創芸社、600円)。国鉄こと日本国有鉄道ならぬ、國鉄という組織があって、分割も民営化もされずに続いた日本が舞台になっている。

 一時は優れた経営者の下で、意識と経営の改善も進んだらしい國鉄だったけれど、栄えるとその下に腐敗がわき上がるのも組織の常道。今は既得権益を守ろうとのさばる勢力もあって、改革も滞りがちになっている。そんな國鉄の親方日の丸的な体質を批判して、線路を塞いぐようなテロを画策する勢力もあったりするなかで、國鉄では公安官ならぬ公安隊を組織して、鉄道と利用者を脅かす事態に対抗しようとしていた。

 主人公の高山直人は、そんな國鉄に入りたいと希望している鉄道好きの高校生。学校は鉄道を専門に学ぶところで、そこからインターン的な立場で企業研修を受ける機会を与えられ、1も2もなく國鉄で働きたいと希望を出した。もっとも、公安のようなハードな組織ではなく、いずれなりたい運転士に近づけるような場所を希望していた直人だったけれど、時勢が果たしてそうだったのか、國鉄を研修の場に希望した人は、みんなまとめて公安部隊に入れられることになってしまった。

 それは嫌だから断りたいと思ったものの、折角受け入れてくれるという國鉄を、仕事が嫌だからと言って断ったら後が大変。それこそ一生、國鉄とは縁のない暮らしを送ることを余儀なくされるという噂もあった。関連会社のそば屋ですら関われなくなるらしい。そう聞いて直人は、教師の指示を受け入れ、公安隊での研修を受け入れる。

 そして物語は、公安隊ならではのハードな訓練を経て、東京駅で実務的な研修を始めた直人が、何かと銃を振り回したがる桜井あおいという少女や、がっしりとした体格をした岩泉翔という少年、おっとりしているようで鉄道の知識は抜群で、祖父が東京駅の駅長と知り合いらしい小海はるかという少女の3人といっしょに、与えられた職務に向き合うストーリーが繰り広げられる。

 まだ学生だから、ドンパチがあるようなハードな現場に送り込まれることはなかったはずだったのに、痴漢が出たら即射殺とうそぶくくらい血気盛んなあおいが、ひったくり犯を見つけたからといって大宮まで追いかけて行っては、身を危険にさらすような大捕物を演じたり、東京駅に仕掛けられているという爆弾をめぐって、テロリストを相手に丁々発止のやりとりをしたりと、大活躍をしてみせる。

 そんな現場での出会いや経験を通して、はじめは公安なんてと思っていた直人も、自分には何も取り柄がなく、向いてないはずの公安という仕事が、実は合っているんじゃないかと思うようになっていく。何事も経験。そしてやる気。さらには仲間。得られることで階段を上っていけるそれらを得たり、持ったり、出会う大切さを教えてくれる物語だ。

 直人はそのまま果たして國鉄に就職するのか、それとも別の道を進むのか。続きがあるとしたら、研修期間中のできごとだけを描いていくのか、國鉄に就職してからの4人を描くのか。想像はつかないけれど、どちらの展開になったとしても、そこでどんな活躍があって、そしてどんな鉄道の知識が得られるのかが楽しみだ。

 日々乗り降りしている東京駅が、いったいどれくらいの人たちに利用されているのか。そして駅員や職員たちは、どんな気持ちで鉄道の仕事に取り組んでいるのか。それらを知れて、学べるライトベル。作者はゲーム会社で鉄道を運転するゲームを宣伝する仕事に就いていたらしく、それだけ鉄道に関する知識には深みがあり、描写にも愛がある。

 愛と言えば、ブルートレインとしての「はやぶさ」が、物語の中で復活しているのもかブルートレインファンには嬉しい話。懐かしいヘッドマークがつけられた列車が、バーニア600の筆によって表紙に描かれているからファンにはたまらない。これを見ただけで手に取る読者もいるかもしれない。

 実際には「はやぶさ」の名称は、秋田へと向かう東北新幹線に使われてしまい、もう復活はあり得ない。伝統を愛し鉄道を愛する人の多い世界が舞台の物語とは違い、効率を尊ぶ分割民営化後のJRに対して、それが利点でもあり、難点でもあるのだと突きつける。もし仮に民営化されず、それでいて経営の合理化も進んだ国鉄が現在の日本にあったとしたら、どんな景色が広がっていただろう。想像しよう。

 刊行元は創芸社クリア文庫という、この本を含めた2冊で立ち上がったレーベル。老舗の講談社までもがライトノベルの新レーベルを立ち上げ、がんがんと宣伝を打っているご時世に、ひっそりと刊行されてどこまでアピールできるのかは難しいところではあるけれど、読みさえすれば面白いかどうかで判断するのが、本当の本好きというもの。目に入って手に取った段階で、講談社だろうが角川書店だろうが横一線。まずは手に取り読んでみよう。

 感想は? 面白い! だからこれからも読むだろう。


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