アントワーヌ・プーペル写真展
展覧会名:アントワーヌ・プーペル写真展
会場:東京都写真美術館
日時:2001年12月7日
入場料:700円



 ソニー・コンピュータエンタテインメント恒例の「プレイステーション・ミーティング」が開かれるんで「恵比寿ガーデンホール」へ。早めに着いたんで隣の「東京都写真美術館」で開幕した「アントワーヌ・プーペル写真展」でも見ようかと受付に行くと、何でもオープニングのレセプションがあるんで観覧は無料ってことで、ちょっと得した気分でギャラリーへと入る。3階の展示室に付くとフロアではレセプションが始まってて、偉い人たちのスピーチが始まりそーだったけど、単なる横入りの一般客は館長だろうと主催者だろうと無関係。ひとり展示室に入ってフランスで活躍中という写真家の日本では初の本格的な個展を見物する。アントワーヌ・プーペル本人のスピーチは流石に見て置いた方がよかったなかな、人柄から分かる作品への影響ってものもあるし。

 とは言へ時代によってバラ付きのある作品を見ると本人がどうってのはあんまり関係がなさそう。むしろ作品を見る邪魔になる可能性もあったから見ないで正解だったかも。展示してあったのは、おおまかに3タイプの作品群。ひとつは人間のポートレートなんだけど、ただ写真に撮るだけじゃなくいろいろな意匠や写真や物体を重ね合わせてデザインしたポートレートになっていて、その面だけ挙げるなら純粋な写真家というよりは、デザイナー的な所作の好きな人なんだなって印象を受ける。

 合成とはいっても一時の「フォーカス」の表紙で知られた所幸則のような、美女のモデルにCGで羽根とか付けて天使に見せるような作品とはちょっと違う。例えばロベール・ドアノーを撮ったポートレートの場合は、大理石のレリーフか何かで作られたピアニストと女性の像の中に写真家の顔が埋め込まれたような感じになっている。他の作品もバックの質感とか全体の構図とかを考えながら顔を配置していく内容になっていて、取りあげられている人と選ばれた構図との関係性なんかまで考察できるのかは分からないけれど、ひとつのポートレートのアイディアとしては面白い。好きかと言われると、林忠彦の文士を撮影した写真のシリーズに比べても、ちょっと作為的過ぎてそれほど好きじゃないんだけど、まあ面白いことは面白い。

 その点、パリのキャバレー「クレイジーホース」で踊る女性のダンサーを撮影したシリーズは、一部にこれまたデザイン的な写真についてはモダン過ぎて目には五月蝿く感じたけれど、楽屋裏とかで化粧したり衣装を身につけようとしていりするダンサーの日常の瞬間を切り取ったシリーズは、スナップ的な雰囲気があってスナップ好きとして割と気に入った。モデルがまたダンサーだけあってグラマラスでスレンダーでブロンドで美人揃いで目に嬉しかったってこともあるにはあるけれど。ドガの「踊り子」はどこまで行っても絵だし、こういう時って写真って永遠に”その瞬間”が残るから嬉しい。

 さらに面白かったのは「博物誌」という新しいシリーズで、何でもスキャナーの上に花とか果物のむいた川だとかを置いてスキャンしてコンピューターに取り込んで、色を塗ったり形を加工したりした上でデザイン的に格好良くして大きな布の真ん中あたりに掛け軸よろしくプリントした内容は、取り込んだからには実物と同じフォルムをしているんだろうけれど、デジタルで処理された派手で且つどこか人工的な雰囲気のある色使いに、何より花びらでも葉っぱでもそれぞれが実物の何10倍も引き延ばされてプリントされているという作為性が、見ている人を自然から受ける安寧とは正反対のザワリとした不思議な気持ちにさせる。

 スキャナーという写真の分野ではあまり使わない入力装置を使ってある点が、監修に関わっている写真評論家であって恐竜の人とは同姓同名らしい金子隆一さんの言うほどカメラに変わる革命的な写真製作方法とは思わないけれど(デジカメだってスキャナーみたいなものだし)、出来上がって来たものの人工的で構築的な雰囲気は、同じ花びらとかを撮っても荒木経惟さんとはまったく違った出来映えで、この違いは興味深い。

 ポートレートのシリーズでも、そういえばカメラはあくまでパーツを入力する装置であって、それにどう他のデザインを重ねていくかってあたりに本領が注ぎ込まれていた所を見ると、そういったデザイナー的な素質がメインであって、一見自然に見えるダンサーのスナップも、あるいはダンサーというどこか人工的な雰囲気を持った存在の整えられた、それこそ人造じゃないかと思わせるようなボディのフォルムを、カメラに取りフィルムに焼き印画紙にデザインしていく感じで作られたのかもしれない。日常の瞬間を切り取って”決定的瞬間”に変えたブレッソンの時代から、フランスの写真も変わって来たのかな。徹底的に作為を入れたマン・レイの写真の時代から、フランスの写真は変わってないのかな。




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