音盤紀行1

 レコードはミステリー。祖父が遺したドーナツ盤には見たことのない文字が書かれていて、プレイヤーにかけるとやっぱり分からない言葉で音楽が流れ出す。麻耶奈はレコード店の女性店員といっしょにレコードの出所を探し、そして麻耶奈がすっかり忘れていた場所へと導いていく。

 レコードはサスペンス。ロックが禁止された国で少女は海上の船から送られてくる海賊放送を聞いて世界的に人気のバンドが奏でるロックミュージックに触れ、感銘を受けていつかそのレコードを聴きたいと願う。危険をくぐり抜けてレコードを手に入れてた少女は、やがて自分も同じように音楽を欲しい人のために届ける役目を担うようになる。

 レコードはコミュニケーション。遠くの暑い国へと出かけて足止めを食らった世界的に人気のバンドがホテルを抜け出し、街に遊びにでかけて耳にとめた少女が必死に奏でるギターのサウンドが自分たちの曲だと知り、そして少女から挑戦を受けて競い合ううちに打ち解け合ってしばしの休息を楽しく過ごす。

 突然に音楽を途絶えさせた海賊放送線が陥っていた危機を乗り越えて、海賊放送船から飛んでくる電波を捕まえて、レコードから再生される音楽を聴いて新しい生活に馴染んでいく女性がいる。街にずっとあるダイナーに置かれた古いジュークボックスで奏でられる、その街で生まれ育った若者達が作った自主制作レコードを聴き続けて、音楽にだんだんと馴染んでいく存在がいる。

 レコードがあったからこそ繋がった絆があり、強くなれた気持ちがあり、動き始めた感情があった。レコードといものが持つそんな役割を、綴ってくれた連作短編が収録された手塚了一郎の「音盤紀行1」(KADOKAWA、720円)を読むと、どこかから引っ張り出してきたレコードをプレイヤーに載せてトーンアームを上げ、針をレコードの溝へと落としたくなる。

 そして、ザリッとしたノイズが流れてそして奏でられ始める音楽とともに「音盤紀行」を読み返して思うのだ。この素晴らしい文化を絶やしてはいけないと。その魅力を伝え続けるためにも、この「音盤紀行」という漫画を伝え広めるのだと。

 そんな漫画だ。


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