奈良美智展
展覧会名:奈良美智展
会場:横浜美術館
日時:2001年8月10日
入場料:1000円



 ぶり返して来た暑さの中を「横浜美術館」で11日からスタートする「奈良美智展」のオープニングを見物に行く。途中時間があったんで横浜駅から歩いてキャラクターショップの「ゲーマーズ」を見物。経営している会社のブロッコリーが応援している「湘南ベルマーレ」のゲームが1試合、「ブロッコリーデー」になるとかで、いったい何をやるんだろうと情報を仕入れに行っただけ。サッカーの試合に猫耳メイド服で尻尾のついた迂闊者で性格最悪なキャラクターの「デ・ジ・キャラット」が踊るとかで、醸し出すギャップがいったいどんな反響を巻き起こすのを見物してみたい気分になる。もちろん心情はベルマーレなんかじゃなく「でじこ」寄りだけど。

 戻って横浜駅から桜木町を経て「横浜美術館」。オープニングの式典が終わって会場に入るとまず眼に入るのがサーフィン犬。サーフボードの上に例の犬の置物が乗っかった作品で、これだけお触り自由ってことで近寄る人通りかかる人が頭を叩いたり背中をなぜたりして遊んでた。子供が上に乗る姿も見られたけれど、中には大人の女性で上に腰掛けて記念写真を撮る人も。芸能人っぽい雰囲気のあるスリムな美女だったから折れもせずへこみもせず、犬は大丈夫みたいだったけど、これが体重にフリーダムな人だったら果たしてどうだっか。横に積載量とか書いた注意書きと置いておかないと、閉幕まで保たないかもしれない。

 展示してあるのはすべて新作だそうで、最初の部屋にはファンとかに呼びかけて作ってもらって送ってもらった「奈良キャラキャッチャー」とでも言えそうな、子供とか犬とかいった奈良美智の作品に登場するキャラクターたちを象ったぬいぐるみを、「I DON’T MIND, IF YOU FORGET ME.」という言葉の、それぞれのアルファベットの形をした透明アクリルのケースに詰め込んで飾った作品を展示してあった。スペルの下には棚が作られていて、そっちにはガンビーとかペコちゃんといった古今のキャラクターグッズが飾られていて、上のスペルと対を成している。

 詰め込まれた奈良キャラぬいぐるみの出来がいずれも秀逸で、画集とかに描かれている平明なキャラをよくぞあそこまで奈良キャラっぽく立体化できたものだと、制作に当たったヌイグルマーな人たちの腕前に感心する。2次元キャラを3次元に違和感なくむしろ格好良くして置換すなくちゃいけないガレージキットにアクションフィギュアの造形が日本人、とてつもなく優秀な訳もなんとなく分かる。

 立体物だとお皿の上にグルリと輪になって並んだ犬の目から流れた涙ならぬ水が口元へと垂れてポタポタとよだれのように滴っている作品と、カップの上に積み上がった子供の顔のそれぞれの眼から涙ならぬ水がしたたり落ちている作品が対になっているよーで興味深い。可愛い犬の汚いよだれ、無垢な子供の痛々しい涙といった感じに、相反しつつも同居しているそれぞれの対象が内在している特質を、さらに対にしてクローズアップして見せる奈良美智らしい作品という気がして面白かった。

 子供と動物には弱いっていう人間の心理を衝いて誘いかけつつ、子供の残酷さ動物の汚さなんかもほのめかしてハッとさせる。そんな心理的な葛藤が、見る人にキャラクターとしての可愛さだけじゃない作品としてのフックとなって働いて、爆発的な人気を持つに到ったのかもしれない。そんな奈良美智と、猫耳メイド服という可愛いらしさのアイコンでもって視覚的な興味を喚起しつつ、性格の歪みっぷりとか目からビームを発射する設定とかで、キャラクターずれした人たちの意表を衝いて関心を集める「でじこ」との間に、果たして関連はあるのか? なんてこじつけも浮かんだけれど、どっちのファンからも蹴り入りそうなんで考えるのはよしておく。  どっちにしたって今となっては文脈よりも見た目の可愛さだけで売れてしまっている感も無きにしもあらずで、作り手の思惑とかを超えてキャラが走り出し消費されていった先に来る、普遍化なのか沈静化なのかは分からないけれど起こるだろー変化を見極めたい気がしてる。勝つのはどっちだ?

 会場を奈良さんの手書きっぽいイラストが小さく描かれたリュックを背負って歩いていた女性がいて、テレビのインタビューなんかを受けていた姿を見て、容貌から推察して吉本ばななさんかもとか思ったけれど、背後霊状態で何気に会話を盗み聞けるほどたくさんの取り巻きもいなかったんで推察するに止めておく。なかなかにグラマラスだったとだけは言っておこう。10月14日まで。


奇想展覧会へ戻る
リウイチのホームページへ戻る