無限のリンケージ

 生死をかけた真剣極まりない自分たちの戦いが、実は誰かによって管理され監視されている中で行われていて、誰かを喜ばせているゲームに過ぎないのではないかという想像が浮かんで消えない。これが行き過ぎると、現実の歴史に起こった数々の戦いの裏にある、秘密結社のようなものへの妄想へと至ったりするから、常に省みることも必要なのだが。

 実際、どこかの国の政策として、ひとつの国内の異なる勢力がそれぞれに煽られ、武器を持たされ、戦いへと突入していった例は過去に幾つもありそうだし、今のこの瞬間にだって行われていたりするから、陰謀論への没入を気に留める必要などないのかもしれない。アフリカとかアジアとか。南米とかバルカンとか。かつて起こり、これから起こるかも知れない争い事に背後に、国と国との思惑があると考えて差し支えはないだろう。

 国家観におけるパワーゲームとしての戦争。それを突き詰めて描いた作品として、提示されて戦慄を覚えたのが、永井豪の「真夜中の戦士」という短編漫画だ。男が目覚めると戦場にいて、馬の首をした奴らや、背中にロケットをかかえて一直線に飛んでいく奴らが周囲に見方としていて、共に戦うというストーリーだった。

 どうして戦うのか? といった男の悩みはそのまま、戦争というものへのアンチテーゼとなっていた。けれども「真夜中の戦士」はそこで留まっていなかった。状況の見えない戦いの果てに、敵の姿を確認した時、己の意志とは無関係な場所で繰り広げられていたゲームのようなものの存在が浮かび上がって、戦慄を覚えさせた。

 操られる虚しさに呆然としつつ、そんな操られる身では自分はないとどうして言えるのか? といった懐疑が浮かんで、読む者を悩みもだえさせた。

 そこから幾年月。個人としての主体もなければ、総体としての主権もない、押しつけられるだけの戦いに身を置いた者の絶望感。その先に、だったら人は何をすべきなのかといったところを考えさせてくれる物語が誕生した。GA文庫大賞の奨励賞を受賞したあわむら赤光の「無限のリンケージ」(ソフトバンク・クリエイティブ、620円)という物語だ。

 舞台はどこかの都市。戦士が科学的な力を生み出す3つのアイテムを駆使して戦う「BTR」という競技に人気が集まってた。主人公のロバートという男は、若いながらもなかな優秀な戦士としてステップアップを繰り返し、今はトップリーグのすぐ下にある2部リーグに所属。そこでも残り3試合を2勝1分けで乗り切れば、晴れて1部リーグへの昇格が決まるところまで来ていた。

 強いとはいえ、ギリギリまで昇格を決められない程度の戦績なのは、ロバートが剣による近接戦にこだわっていたから。彼が正々堂々の戦いを好むのは、かつてとある星にある小国で王族に仕える騎士だったからで、それならどうして今、異星で管理された戦いに身を置いているのかというところに、ロバートをとりまく悲劇ともいえる過去があり、その悲劇にBTRという競技が大きく関わっていたという真実があった。

 分からないのは、遠くから自分たちを操り悲劇を演出したような競技に、ロバートが自分から入りこんで、過酷な戦いに騎士であるその手を染めているという部分。あるいは演出はしていても根本にあったのは、星を舞台に対立を繰り返した自分たちの落ち度で、そこにBTR側はつけ込んだだけだといった割り切りを持っていたからなのか。稼げる金の多さから、BTRに戦士として参加せざるを得なかったからなのか。

 いずれにしても、心に相当のプレッシャーをかけてBTRに臨んでいるロバート。それでいて、平生は若い科学者のサクヤをからかってみせる鉄面皮ぶり。騎士という存在の心身ともに底知れない強さというものが伺える。そのロバートが、すべてを振り切ってでも勝ちたかった相手を沈めたクライマックス。それでも未だ遠い幸福を求める物語が、この先も続いていくことになるのだろう。

 それが物語として描かれるのかどうかは分からない。母国に幸福がもたらされる日が訪れるのかはさらに見えない。2部リーグですら強靱な戦士が大勢いたのだから、1部ともなれば強さはけた違のものになるだろう。そんな戦士を相手にロバートは戦って勝ち抜いていけるのか。興味は尽きず、だからこそ描かれて欲しいという望みも膨れあがる。

 3つの道具を使えるという条件下での戦いは、純粋な剣の腕前とは別に戦略性も必要とされる。どちらかといえば純粋な戦士のロバートを頂いて、チームにいったいどんな戦略をとらせるのか、それが戦いの場でどう発揮されるのかといった楽しみも与えてくれそうだ。百戦錬磨の者たちですら攻略できる戦略を、作家として考え出す困難さは承知で、著者にはこの先の物語に、是非に挑んでいって欲しいと心からこいねがおう。


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