もえぶたに告ぐ  〜DRAMATIC REVENGE STORY〜

 タイトルが長いとかタイトルが大袈裟だとかタイトルが刺激的すぎるといった意見が、ライトノベルについて出てくるのもよく分かる。いつの頃からか内容だとかキャラクターだとか状況だとかを、そのまま説明するような長いタイトルを付けるのが流行り始めて、今は長さ比べすらするような感じになってしまっているし、煽るようなタイトルをつけて炎上混じりの評判を呼んで、一時の興味を引きつけるようにもなっている。

 その動きがライトノベルの新人賞への応募者にも広がったのか、ホビージャパンの第6回HJ文庫大賞に「せんせいは何故女子中学生にちんちんをぶちこみ続けるのか?」という、長い上に刺激も過ぎるタイトルで応募される作品まで出てきた。なおかつ奨励賞まで受賞してしまったものの、これはさすがに拙いだろうと編集部も考えたのか、「インテリぶる推理少女とハメたいせんせい」(HJ文庫)というタイトルに変えての刊行となった。

 もっとも、「インテリぶる推理少女とハメたいせんせい」は、その刺激的だった元のタイトル以上に中身が刺激的過ぎて、小説としての賛否を招いて現代にどういう意味を持った作品なのかが問われるくらいにもなった。元のタイトルではそうした中身に興味を持った人に、手に取ってもらえなかったかもしれない。あるいは本屋さんに売ってもらえなかったかもしれない。改題には意味があったといったということだ。

 長いタイトルにしても刺激的なタイトルにしても、最初の頃ならおおいに目立てたものの、最近はあれもこれもが長くで大袈裟で刺激的だと十把一絡げで扱われ、むしろありきたりなタイトルの作品を、あらすじとか絵とかを吟味し買うようになっていたりする。そんな動きの中に出た松岡万作の「もえぶたに告ぐ 〜DRAMATIC REVENGE STORY〜」(HJ文庫、619円)は、刺激的なタイトルを堂々名乗ってきたという面で、穏当化の風に逆らい流れに棹さす勇気を示した作品と言えるかもしれない。

 もっとも、「インテリぶる推理少女とハメたいせんせい」と同じ賞で同じ奨励賞をもらった時のタイトルが、「もえさん 〜ぶたのえさの香ばしさ〜」というこれまた非道いタイトルではあったものの、同じ受賞に「せんせいは何故女子中学生にちんちんをぶちこみ続けるのか?」があった関係で、それ以上に話題に上ることは少なかった。それが「インテリぶる推理少女とハメたいせんせい」と改題されて刊行され、おおいに世間を賑わしている状況で、逆に過激さを増した「もえぶたに告ぐ」というタイトルで刊行されても、インパクトでは若干劣ってしまう。タイミングは重要だ。

 ではつまらないのかというと、これが面白いから嫌になる、ではなく素晴らしい。天叢財閥の御曹司、武尊とは幼なじみの高嶺萌蔵という少年が、まだ子供だった頃に女装して武尊の前に立ったらなぜか嫌われ、「去(い)ね」とまで言われて大激怒。彼を籠絡した上で手ひどく振って笑ってやろうと、ずっと女装しては武尊の周辺につきまとい続け、武尊のことを好きだと言い続けていたものの、相手は高慢にして尊大な態度をまるで崩さず、萌蔵のことを無視し続ける。

 それでも諦めなかった萌蔵の前に現れたのが、謎の妖精シャンルー。この世に「萌え」を集めに来たというシャンルーを手伝うことにした萌蔵は、自分の復讐もそこに乗せてある計画を立ち上げた。というのがこの「もえぶたに告ぐ」という作品の大まかなストーリー。そこで普通だったら自分の女装姿をよりパワーアップして、朴念仁で尊大な武尊に萌え心を抱かせようとする展開に行くところを、ありがちを避け過激に走る傾向の色濃いレーベルが認めた作品だけあって、ありきたりには向かわない。

 逆に、その尊大だけれど冷静でもある武尊の面目を丸つぶれにしようと画策して、武尊にあるる細工をする。そして、訳あって竹流と変えた武尊が、自分に対して誰かを萌えさせようとして繰り広げる奇態を笑う作戦に出た。とはいえ、そこは尊大を極めた武尊だけあって、竹流となっても態度は変わらず傲岸不遜。それでいて、萌蔵を相手に自分が信じる策を講じようとするものだから、萌蔵は圧倒されっぱなしになってしまう。

 もっとも、そんな竹流の姿がある種のギャップを浮かべて、読む人を面白がされてくれるところがこの作品のひとつのポイント。というか面白いといった言葉を超越するような、極大的に極北的なツンデレぶりを見せてくれては、読む人にそれこそ“萌え心”を感じさせてしまう。なおかつ徹底して尊大だった竹流の態度の、その裏にあった強大無比なツンデレ心理を知った時、浮かぶ“萌え心”の凄まじいこと。それは萌蔵すらも戸惑わせ、腹黒さを捨てさせ従順にさせ、それを見て竹流もまた……。

 そんな経緯が分かってから作品を読み返すと、どこまでも尊大な武尊であり竹流の言動の裏に、そこはかとない情愛を感じるかもしれないし、まるで感じないかもしれない。いずれにしても、自分がどうなろうと首尾一貫して尊大さを崩さず、凛として己の矜持を保ち続ける竹流であり武尊の真っ直ぐさが、眼を眩(まぶ)しくさせるだろう。

 ほかに出てくるキャラクターたちが、猫を被って女装も止めずに武尊を好きだと言い続けた萌蔵しかり、お嬢さま然としていながら内心は超腹黒だった古宮美命しかり、おとなしそうに見えて実はヤクザの娘ならではの喧嘩っぱやさを備えた二見浦優雨しかりと、誰もが裏表あり過ぎ。人間らしいところだけれど、それらを圧倒して炸裂する武尊であり竹流の真っ直ぐさは、性別を超えた“萌え心”を呼ぶだろう。その意味では、萌蔵の作戦は成功していたのかもしれない。

 タイトルのどこか世間を煽るようなニュアンスとは別の方向で、異色さを感じさせつつ楽しさも覚えさせてくれる1冊。本心が相互に通ってしまった萌蔵と武尊のこれからと、困った事態に陥ってしまった萌蔵がどうやって対処していくのかを、続くにしても続かないにしても、想像して楽しもう。


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