魔術戦士
マジカル・ウォーリアー

 大陸書房での刊行が6巻で中断して移った小学館のスーパークエスト文庫でも3巻で途絶。およそほとんどの読者が完結は無理と諦めつつ、およそすべての読者が完結を願っていた朝松健の「魔術戦士 マジカル・ウォーリアー」が、角川春樹事務所のハルキノベルズからの書き下ろしによる第7巻で奇跡の完結を遂げた。

 熱烈なファンなら、大陸書房の頃より10年の長きをかけてやきもきしつつ、待ちわびた挙げ句にようやく到来した「読了」の至福を、1日から長くても1週間で味わい尽くせる読者がいたとして、その狡猾さは遅れて来たファンの特権だと言えるだろう。だが、カレーなら翌日まで寝かせた方が格段に美味しく、ワインなら10年ウイスキーなら30年を越えてようやく堪能できる究極の味があるというもの。10年を待ったファンが今まさに第7巻を手に取り、読んで感じる至福にはとても及ばないことは明々白々だ。遅れて来たファンの電子レンジで冷凍食品を食べるが如くの至福は、笑って見逃して頂ければありがたい。

 もちろん「魔術戦士」には、例に冷凍食品という言葉から想起される、お手軽ながらも味で一段落ちる食品といったニュアンスは微塵もない。たとえ過去に刊行された巻であっても、すべてにおいて手直しが加えられ、「今」の朝松健の全霊がそこにたたき込まれた、できたてほやほや旬の食材の産地直送に等しい新鮮さ、ホットさを持っている。加えてこれはスタート時より定評だった、魔術に関する知識の豊富さ、手続きを踏んだ記述の正確さは、いささかの価値も減じることなく読者を暗黒へと誘う。闇の魔術的組織と正義の魔術戦士たちとのド派手なバトルを楽しめる、至高にして究極のエンターテインメントに仕上がっている。

 世界の破滅をもくろむ闇の魔術的テロリスト「W∵O∵R∵M∵(ワーム)」に対抗するために、光の魔術結社「S∴W∴O∴R∴D∴(ソード)」に消せ胃されたのが特殊戦闘部員「マジカルウソーリアー」。その中でも屈指の強さを誇る男が<火>の魔術戦士(マジカル・ウォーリアー)士門聖司だった。「ワーム」がいる場所なら、世界のどこへでも出撃しては敵と戦う彼に、ブラジルの寺院を壊滅させた次の任務として、新たに設立が進み始めた日本寺院壊滅の指令が下された。その命に従い、奈良県の発生した若い女性の行方不明事件の背後にある、「ワーム」の動きに挑んだ士門だったが、復活しようとする大物主命(オオクニヌシの別名)を退けたものの、女性の胎内に宿った大物主命の悪しき部分を受け継いだ命には気づかず、やがて来るべき日本を舞台にした「ワーム」との激闘に、引き込まれてくのだった。

 闇が胎動する1巻から闇が誕生する2巻にかけてのおどろおどろしさは、日本の神の復活を描いた数ある伝奇系の話の中でも高い説得力を持っており、日本が邪悪な神の吹き溜まりになっていたと主張する文化人類学者、木村の説とも相まって、まさしく「邪心帝国」とも言うべき日本をめぐる聖と邪とのバトルの行く末と、そんな展開を高次から見つめる宇宙的な存在への想像が入り交じって、3巻以降への期待を抱かせる。

 東京へと話が移った3巻以降も、魔術描写の確かさにエンターテインメント性が強く加わりページをめくる手を止めさせない。大言主の邪悪な念を受け継いで生まれた少女の邪悪な振る舞い、新たな依代として選ばれた男・平賀の操り人形とは気づかずに張る虚勢等々、悪しき想念に翻弄される者どもの哀しくも滑稽な様が描かれる。さらに、続々とやって来る悪の魔術師たちのバラエティーに飛んだ造形は、漫画的ジャンプ的なエスカレートするヒーローバトルへの興奮とも重なり、一方の魔術戦士たちの同様に終結する様々な能力を持った仲間たちの登場とも相まって、楽しく読める。

 宗教的な力をバックに持ち、とりわけキリスト教圏では国家元首に匹敵する力を持って政治にだって圧力をかけらえるだろう「国際宗教者平和協議会」が存在しながら、やすやすと悪の魔術師集団に魂を売り渡してしまう日本政府のふがいなさは気になったが、自立の意識に乏しい日本の政治など所詮は程度なんだと言ってしまえばなるほど納得。だからこそ日本を舞台に闇のキリストの復活を願って、大勢の人が集まって来たのだと言えるだろう。怪獣が東京湾に集まるよりは遙かに説得力がある。

 木村の唱えた日本は邪神の流刑地だという説を、もっと前面へと押し出した「だから日本なんだ」と言う理由付けによって納得させて欲しかった気もするし、何か大宇宙の意思めいた存在を示唆させる部分もあるから、地上での絶対的な善と悪の戦いも、はるか高次から見れば相対的に過ぎないものだという哲学めいた展開へと進んでも面白かったような気もする。が、自分が善か悪かについて悩んでしまう主人公など過去にいくらでも類がある。聖なる役割をストレートに信じて猪突猛進するコマンドーたちが見せる、容赦なく屈託もない戦いぶりをここは堪能すべきだろう。

 さてもとりあえず終わった”第1部”、すべてを終えて成長した主人公たちに改めて襲いかかる、しぶとく生き残った悪の組織が志門に、悪意に飲み込まれず聖なる役目に気づいたレイに、他の強力な魔術戦士たちに今度は世界規模での災厄となって襲いかかる中、この第3惑星・地球に生命が生まれて人間が発生して魔術によって霊界とのチャネルを確保しつつもちっぽけな場所で小競り合いを繰り広げる、その宇宙的な意味とは何だろう? といったことを深く探求していく”第2”部の発売を心待ちにしたい。

 とは言うものの、どうやら現時点では「魔術戦士」は全7巻で完結のいようだ。だが言いいたい。「甘いぞ甘い」と。まだまだ絞れば絞り出せる。キャラクターのすっくと立った黒魔術師軍団の再投入によって巻き起こる、この世がこの太陽系が銀河系が吹き飛ぶくらいの激しいバトルをまだ続けられる。たとえシリーズは変わっても、世代や地域が変わっても「マジカルウォリアー」の存在は絶対に不必要とはならない。常に悪が蠢動しているという、いささか悲しむべき自体でもあるが、この世に悪の栄えた試しはなくとも、悪が消滅した時代はない。故に「マジカル・ウォーリアー」は存在意義を失わない。

 だから頼む。朝松健に、「マジカル・ウォーリアー」にさらなる戦いの場を。10年をかけて待望した完結を、たったの1日すら待たずに堪能してしまった贅沢にして狡猾な身だ。その反省も踏まえて今はたとえ50年でも待ち続ける覚悟がある。重ねて願おう。「マジカル・ウォーリアー」の復活を。


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