魔女と猫の話

飼い猫は飼い主に似るという。それは半分くらい正解で、半分くらいは間違いだ。飼い猫は飼い主をそのままそっくりに真似はしない。というより猫は基本自由。思うがままに振る舞っているだけなのに、飼い主は猫の自在さを自分の自在になりたいという願望の現れだと思って、そこに自分を見てしまう。

 つまり猫は鏡。自分をそのまま映して満足させてくれるときもあれば、自分では気づいていないところを現して、そうだったんだと気づかせてくれるときもある。そんな風に人は猫たちから、自分自身を見つめ直すきっかけを得て、ちょっとだけ新しい自分に成長していくことができる。

 でも本当に、猫が飼い主を支えてくれる世界があったとしたら? 四宮しの、という人の「魔女と猫の話」(少年画報社、600円)は、そんな世界とそこに暮らす少女たちを描いた漫画たちを集めた連作短編集。その世界には魔女がいて、そして魔法を学べる学校があって、その学校に通う少女は13歳になると魔法陣を使って猫を呼びだし、一生のパートナーにすることになっている。

 でも、13歳なんてまだまだ子供。自分に不安を抱えていて、本当に猫を呼びだしても良いのかと悩んだりもすれば、果てしない望みを抱いていて、自分で呼びだした猫が自分の好みとは違っていたと感じて迷ったりもする。大人たちの目から見ればとるにたりないことだけれど、少女たちにとっては一生を揺るがすかのような大問題。実際、猫たちは一生のパートナーとなる訳で、それが最良の出会いであって欲しいと願うのは当然かもしれない。

 街で慕われている薬売りの魔女のおばあさんと、パートナーの黒猫との関係に憧れているすずという名の少女は、自分もそんな関係になりたい、そして街のみんなの役に立ちたい思っていた。けれども、呼びだして出てきたのは、不格好でいつもダルそうにしている猫。勝手にお菓子は食べるは、げっぷはするはと上品さのカケラもない姿で、とてもじゃないけれどおばあちゃんと猫の関係のようにはなれそうもない。

 魔女だと言われるのが嫌で、魔法学校に入っても魔女になりたいと思えず、自分になかなか自信を持てず、いつもうつむき加減に歩いているニナという少女が呼びだした猫は、そんな少女をいたわらず励ましもせず、逆に罵倒してスパルタ方式で鍛え直そうとする。全然楽しくないし、前にも増して自分あダメなんじゃないかと思えてしまう。

 同級生たちと夜の寄宿舎で語らっているうちに、手違いで魔法陣を描いてしまい、そこから現れた猫が、ぷるぷると怯え本当は呼びだされたんじゃないと知って泣き出してしまうのに、それを迷惑そうに思っていた蛍という少女。自分とは無関係なんだという態度をとって、余計に猫を寂しがらせたまま、魔法の世界へと返してしまって後悔する。

 とっても歳をとった猫を呼びだしてしまったマリーは、自分が魔女になってやりたいことが見つからないまま、それでも何かしなくてはいけないのだと考えてちょっぴり焦ったりする。そんな4人の少女たちはは、みな呼びだしたそれぞれの猫たちとのつき合いの中で知ることになる。

 自分に欠けているものを、呼びだされた猫たちが見せてくれているのだということに。13歳という、大人に少し近づいてはいてもまだまだ子供という少女たちの思春期ならではの揺れ動く心をさらけ出し、そして成長していくための道筋を、実は猫たちが作ってくれていたのだということに。

 自分勝手を改め、自分自身を見つめ直す機会を経て、少女たちは少しだけ、大人になって世界を知って、そして自分の本当にやりたいことに近づいていく。さまざまな猫たちと少女たちとの関係を描く漫画であると同時に、少女たちの揺れ動く心情と、それを乗り越えた先にあるだろう充実した日々を描いた漫画。それが「魔女と猫の話」だ。

 現実のこの世界に生きていて、猫を呼び出せない少女たちは、ここから想像するだろう。自分にはどんな猫が現れてくれるのかと。そして知るだろう。そんな猫たちに映した自分の心から、自分の欠けているものが何なのかを。あとは進むだけ。心に飼った自分だけの猫が見せてくれた道を。まっすぐに。止まることなく。


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