ラストオーダー1 ひとりぼっちの百年戦争

 新人賞などを受賞したり、声がかかって小説家としてデビューしたりしながらも、その後が続かずなかなか次を出せない状態になった作家に再デビューのきっかけを与えようと、講談社が立ち上げた「講談社NOVEL DAYSリデビュー小説賞」を受賞した浜松春日が受賞作となる「ラストオーダー1 ひとりぼっちの百年戦争』(講談社ラノベ文庫、680円)を刊行した。

 「ルーントルーパーズ 自衛隊漂流戦記」といったシリーズをアルファポリスから刊行していた作家らしくミリタリー色を持った作品だが、一方で人間とロボットの間に横たわる差別意識のようなものにも迫ったSF作品となっている。たぶん未来の日本、人間に近いロボットのヒューマロイドが開発され、人間社会に浸透しつつある時代、軍用ヒューマロイドのリアは基地を出て街へ出た。

 街では、性能の良いヒューマロイドが人間の仕事を奪うのではないかといった不安から、ヒューマロイド排斥運動が活発になっていた。長く自分を世話してくれた旧型のヒューマロイドを連れていて、運動家に襲われそうになっていた少女を助けようとしたリアは、割り込んできた人間の少年と知り合って、メイド喫茶に連れて行かれる。

 しばしの交流を持ち、少年とも何度か合うようになり、またいっしょに出かけようと思っていたリアだったけれど、物語はそんな人間とヒューマロイドとの違いも差別も超えた恋物語に向かうことなく、一気に舞台が変わり時間も過ぎ、リアは廃墟となり木々が茂る人工島にいて、兵士として拠点防衛を任され戦い続けていた。100年間も。

 その人工島に襲来する半生物兵器を撃退する日々の中、仲間はだんだんと失われ、リアひとりだけが残った状況。それでも敵は着続ける。撤退なり停戦といった命令も来ない以上は持ち場を離れられないと、リアは単独で戦い続けてきた。太平洋戦争が終結してから29年間、ルバング島で諜報活動を続けた小野田寛郎少尉を思い出すシチュエーション。上官の命令がなければ離任できないというのも共通だ。

 もっとも、人間の方では戦争は終わっていたと認識していた。そして、大きく文明が後退し地下や建物の中などに集落を作り栽培や採集などをしながら暮らしていた。そんな集落に育ったノーリィとミクリの兄妹だったけれど、ミクリに栄養をつけさせようとしてノーリィが掟を破り、村から離れてとって来たドブネズミからペストがミクリにうつってしまった。村を危険に陥れたということで、追放されたノーリィとミクリ。道中を行商人のキツネが同行したものの、危険な蜘蛛型の半生物兵器が現れた時、キツネはノーリィとミクリをおとりにしてひとり逃げ出そうとする。

 そこに現れたのがリア。兵士になる前は子どもを相手にしていたヒューマロイドということもあって、子どもが危険な目にあっているのを見捨てられなかった。スパイかもしれないと疑いつつも兄妹を助けたリアが、戦争が終わっていないと信じて戦っているのを見てノーリィは思う。リアを解放してあげたいと。

 ノーリィは戦争が100年も前に終わったという。けれども未だに半生物兵器の襲来はあって、集落の周辺にあった別の集落にいた人間たちが次々に狩られていた。それはいったいどういうことか。そもそも戦争はどことどこが戦った? そうした過去がまだ見えず、人間の側の趨勢も敵らしい側の正体も見えないだけに、人類がこれから向かう先が気にかかる。すべてが収まれば平穏が戻るのかといった感じに。

 ミクリをリア預けてキツネと旅に出たノーリィは、どんな世界の状況を見るのか。そしてリアを解放するための方法を見つけられるのか。そんな興味に惹かれつつ、ヒューマロイドを未だに敵視している人類が、リアを含めたヒューマロイドと連携して新しい未来を開くのか、それとも決戦を経て別の未来にたどり着くのか、続きを見てみたい気がしている。リデビューはきっかけにすぎない。書き続け書き上げられてこそ意味がある。そのための場を浜松春日に。彼が繰り出す答えを読者に。


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