境界の彼方 & 境界の彼方2

 出てくるキャラクターはそろいもそろって変態ばかり。なのに違和感を覚えず嫌悪感も浮かばないで、そんなキャラクターたちの間に入り込みたくなるこの不思議。秘密があるとしたら、それはキャラクターたちが繰り広げる会話の楽しさ、見せるバトルの派手さ鋭さ激しさが、変態ぶりを超えてキャラクターたちに愛着と関心を抱かせるから、なのかもしれない。

 KAエスマ文庫から出ている鳥居なごむの「境界の彼方」の第2巻まで出ているシリーズに登場するキャラクターたちが、どれくらい変態なのかといえば、神原秋人という主人公の少年からして極めつけのど変態。眼鏡をかけている女性にしか興味がないというか、女性がかけている眼鏡にしか興味がないというか、そんな感じに眼鏡をフェティッシュの対象として定め、すべての根本に置いて生きている。

 だから、通っている高校で赤い眼鏡をかけた少女が、あるいは少女がかけていた赤い眼鏡が屋上に存在しているのを見つけて、その完璧なまでのマッチぶりに居ても立ってもいられないと、屋上まで駆け上がって「要約すると眼鏡が大好きです」と訴える。そして、栗山未来という名前だったその少女に「不愉快です」と言われ、彼女がどこからともなく出した剣に刺し貫かれても、厭わず嫌わなずむしろ余計に彼女に関心を抱く。

 仮に命を奪われていたとしても、怨みなんて抱かず昇天しただろう。もっとも、秋人は昇天どころか入院すらしないで、すっくと栗山未来の前に立ち上がってみせて彼女を驚かせる。いったいどうして? それは不老不死だから。妖夢という一種の化物が跋扈しているその世界で、人間と妖夢の間に生まれた秋人は、傷つけられてもすぐに治り、人間なら死ぬようなことをされても甦る、不死身の肉体を持っていた。

 ちょっと待て。生き返ったことに驚くなら、栗山未来は秋人を殺したつもりでいたということになる。少女が少年を殺害する。そんなことがあって良いのか? だから良いのだ。栗山未来は実は妖夢を狩り歩く異界士という存在の1人。その街には何か理由があってやって来たばかりで、目の前に半分でも妖夢の秋人が現れたのを見て、即座に刺してしまった。

 それが殺せず生き返った。だから驚いた。以後、栗山未来はことあるごとに秋人に向かって「不愉快です」を連発しては、その赤い眼鏡の奥から秋人を見据えて誹り、虐げる。それを受けて嫌うどころか喜ぶ秋人。やはり変態以外の何者でもない。

 そんな秋人に変態ぶりで負けてないのが、名瀬という異界士の名門に生まれた美月という美少女とその兄の博臣。このうちの博臣は、結界を抜けて入ってきた秋人を即座に察知して排除しようとしたものの、彼が不死身だったことと、他人に危害を加えるつもりがなかったことを知り、休戦協定を結んで存在を許した。

 晴れて高校に通えるようになったものの、半ば監視の意味も含んでか、美月が部長を務める文芸部に無理矢理引っ張り込まれた秋人は、そこで美月から、毎日のようにとてつもない毒舌を浴びる羽目になる。秋人を口先で虐げ、秋人が反論を返して突っ込むものの、美月がさらに上を行って毒舌を吐きまくっては、秋人をゼエゼエと喘がせる。

 そんな秋人や美月と同じ学校には博臣も通っていて、こちらも秋人に負けないど変態ぶりを見せてくる。超絶美形な上に、異界士として強固な壁を作り、防御する腕前に長けていながら、重度のシスコンで、妹の美月を持てはやしては彼女から鬱陶しがられ、それでもしつこくつきまとう。

 どれくらいシスコンかといえば、第2巻で美月から「1分間に『きゃりーぱみゅぱみゅ』と100回言えたらキスしてあげる」と言われ、即座に挑戦を始めては唇を噛み、口の端から血を流しても止めず2度3度4度5度と挑み続ける。はっきり言って成功率ゼロ以下の難題に、それでも厭わず迷わないで突き進む。もはやシスコンという言葉すらカジュアルに聞こえる溺愛ぶりだ。

 そんな秋人と美月、博臣の3人で作る文芸部に、栗山未来も引っ張り込まれて活動を始めた矢先。何者かが現れ部室を襲う。名瀬による強力な結界が張られ、博臣に気づかれないで入り込むのは困難な学校に、知らず入り込んで来た謎の敵。いったい誰が送り込んできたのか。それはどうして栗山未来を狙っていたのか。謎が膨らみ疑惑が漂う。

 栗山未来は誰かに送り込まれてきた敵なのではないかという疑惑。あるいは、かつて親しかったものの、今は逃げている異界士をかくまっているのではないかという疑惑。そんな疑いを持たれた栗山未来と、彼女から「不愉快です」と言われ続けても引かず、アプローチを続ける眼鏡フェチの秋人との関係に、毒舌の美月、シスコンの博臣の名瀬兄妹が絡んでストーリーは進んでいく。

 そこに名瀬の長姉で、博臣も美月も遠く及ばないくらい高い異界士としての能力を持った、泉という女性も絡んで蠢く策謀。一筋縄ではいかない敵と味方の関係を描きつつ、あざやかにストーリーを紡ぎ、なおかつ変態という特徴を存分に見せるキャラクターたちも押し出しながら、崩れないでクライマックスへと至る構成力が素晴らしい。

 第2巻では、拳銃使いの異界士が追われていて、それを異界士の査問会が追っているという構図に巻きこまれることになった、秋人と名瀬の美月に博臣、そして栗山未来が描かれる。ストレートな追跡物に見えて、策謀が渦巻きその先に意外な真犯人が浮かぶ展開は、伝奇でありサスペンスでありミステリー。それでいてキャラたちの界隈にはコミカルさがあって飽きさせない。

 どこまでも眼鏡にこだわる秋人の変態に、妹を絶対とする博臣の変態を楽しむも良し、そんな2人が戦う際の熱さ強さを味わうも良し、毒舌の美月の可愛さに酔うも良し、栗山未来の純朴さに惚れるも良し、そして泉のイケズっぷりに憧れるも良しと、キャラクターに気持ちを寄せて読んでも楽しい鳥居なごむ「境界の彼方」シリーズ。君は誰が好き? 美人で強くて格好いいのに男縁の薄い異界士のニノさんが好き。それも結構。うん結構。


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