クレイとフィンと夢見た手紙

 白をバックにしていながらも、描かれているのは男性キャラクターでそれも2人。派手な色彩ではなく、線画に近い抑えられたトーンの表紙絵を持った友野詳の「クレイとフィンと夢見た手紙」(MF文庫J、580円)というライトノベルは、白をバックにメインとは限らない美少女キャラクターをひとり大きく配置して、ビジュアル面から少年たちの心を引き寄せ、手に取らせることで発展して来たレーベルにあって少しの異色差を醸し出す。

 内容も少し変わっていて、クレイとフィンという名前らしい表紙絵に登場している青年2人がバディとなって、現実には届けられなかった手紙を届けて回るというもの。家に美少女が押し掛けてくる訳でも、美少女の奴隷になってこき使われる訳でもなく、2人の青年が誰かといい仲になったりすることもやはりなくて、そうした願望を満たしたい読者の心理を、どこか拒絶するところがあったりもする。別の趣味人を引きつけるような、2人の青年がいい仲になったりすることもないけれど。

 世界の設定も、美少女が単独で大きく描かれているようなライトノベル作品とは少し違っている。現実で未来でも異世界でもなく、ひとつの時空がフラットにつながっているということでもない。訳があって世界がつぎはぎになってしまっているという状況下で生きる人たちに、誰かが言葉を送ろうとして命が尽き、手紙を出せなかったり、語って伝えられなかったことを、別の次元に属するクレイとフィンの2人が、代理人のようにして運び伝え、読んでもらうというエピソードが連作として綴られる。

 それ自体は、死者からの手紙を届けるエピソードを連ね描いて、人間の死と生について考えさせた「シゴフミ」であったり、荒れた世界を渡って手紙を運んでいるロボットの少女を主役に、思いを伝えることの意味を描いた「ポストガール」であったりといった、過去のライトノベル作品を想起させる。違うのは、そうやって順繰りに手紙が届けられたことによって、受けとった人たちに変化が生まれ、それらが連なりを作ってひとつのストーリーに収まっていくところ。全体を通してひとつのストーリーが浮かび上がってくる。

 クレイとフィンが生きる人たちに手紙を届けることで、バラバラになってしまった世界を“正常”にしようとする勢力があり、その思惑に乗って2人の青年は手紙を届けている。一方に、世界を逆にバラバラにしてしまおうとして郵便配達の仕事を邪魔する<人形操り>と呼ばれる謎の勢力もあって、それが所々に顔を出してくる。クレイとフィンがそんな敵を相手に戦いつつ、手紙の受け取り主を巡るゴタゴタにも介入したり、巻きこまれたりしながら解決に導くという展開からは、次は誰が出てきてどんな事件が起こりそして、どういう解決を提示するのかという興味が浮かぶ。

 その上に、世界がどいういう風になっていて、それを誰がどういう風にしようとしているか、けれども誰がどうして邪魔しようとしているのか、といった背景を探る楽しみもある。加えてユニークなのは、そうした設定をシリアスに描けば、どこまでもシリアスになっていくはずのものが、割とコミカルな部分も残し、登場人物たちに強烈なキャラクター性を持たせることで頼んで威読んでいける点。分けてもそれぞれのエピソードに出て来て、手紙を受けとる側に回る美少女キャラクターたちは誰もが強烈で、キャラクターに感情を添えて読んでいくタイプの人の欲求を多分に満たす。

 クレイとフィンが手紙を届ける相手には、ごくごく普通の人間などいない。魔女のところで下働きをしていた人狼の少女がいたり、吸血鬼の王の庇護下にあるらしいどこか物憂げな少女がいたり、国を背負って立つはずのお姫さまがいたり、武器商人の孫娘として今ながらも疎まれ親族から迷惑がられたのを嫌気して逃げ出し、地下カジノを作りあげた少女がいたり、予言を繰り出す鳥の少女がいたりと多才。見かけのようには一筋縄ではいかないところもあって、吸血鬼の少女ジュヌヴィエーヴなど、病気なのかよく咳き込むけれど、その訳を知ったら誰もがひっくり返ってしまうかもしれない。

 設定を楽しめキャラを楽しめる物語。残された思いを受けて喜ぶ生者の姿から、死して後を考え何かを託しておく必要性を感じさせられる物語。様々な思いがひとつに重なって、より大きな未来を作ることができるのだと知れる物語。今はまだ見えない背景がこれからどう示され、世界はどう導いていかれるのかを想像しながら、続きを楽しんでいければ嬉しいのだけれど、果たして刊行されるのか。気になるところだ。


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