クラダルマ

 SF漫画に登場する超能力者で、誰が1番好きですかって聞かれれば、真っ先に「超人ロック」(『超人ロック』聖悠紀)って答えるだろう。初めて登場してからそれこそ20年以上は経ってるのに、未だに現役で活躍してるってところが凄い。

 ほかには「レッド・星」(『スター・レッド』萩尾望都)とか「ジャスティ・カイザード」(『ジャスティ』岡崎つぐお)とか「ジョミイ・マーキス・シン」(『地球へ』竹宮恵子)なんかが上位に来る。ほとんど横一線で2位グループを争ってるって言って間違いじゃない。

 絶対に外せないのが「ラン」と「ソネット」の2人。柴田昌弘さんの「ブルーソネット」に敵と味方に分かれて登場した美少女超能力者で、2人ともやっぱり2位グループに入ってる。何しろ「超人ロック」と並んで、高校時代に1番熱中した漫画がこの「ブルーソネット」。何カ月かに1度、必ずどちらかの単行本が発売されたから、それを心待ちにしながら、部活動はせずデートなんてもってのほかの、暗く寂しい高校時代を送っていた。

 「ブルーソネット」は大学時代に連載が終わってしまったし、「超人ロック」も主戦場だった「少年キング」が潰れてしばしのお別れとなった。最近になって青磁ビブロスの方で「超人ロック」の新作が読めるようになり、全宇宙をまたにかけて駆け回る「超人ロック」の活躍を再び楽しめるようになったけど、「ラン」が登場する「赤い牙シリーズ」の方は、「ブルーソネット」以降、今にいたるまでお目にかかっていない。

 ほかに連載が忙しかったこともあるんだろうけど、あまりに哀しい終わり方にしてしまったことで、柴田さんの中にこれ以上は「赤い牙シリーズ」を描けないという気持ちが生まれて、1区切りを付けてさせしまったんじゃないかと、そう勝手に思っている。

 かくいう自分も、「ブルーソネット」が終わってから、柴田さんの作品を読まなくなってしまった。哀しすぎる結末にした柴田さんに、内心反発を覚えたのかもしれない。「クラダルマ」という作品も、実はいつ頃から雑誌(「ヤングキング)に連載が始まったのか、いったいどういう内容の話なのかということを、単行本が10巻当たりまで出揃うまで、まったく知らずにいた。

 読んでみようという気になったのは、何気なしに手にとった「ヤングキング」に「クラダルマ」が載っていて、「ラン」や「ソネット」のように超能力を使う美少女が登場していることを知ったから。加えてあちこち古本屋を回っているうちに、当時発売されていた分の単行本がひとくくりになって売られているのを発見。これも何かの因縁と、買って帰って読み始めたら止まらなくなった。

 制作プロダクションでアルバイトをする少年・久慈将介は、取材に行った空港で、人気急上昇中のグループ「シャングリ・ラ」のリーダー・シンシアと触れてしまい、運命の分岐点を通過する。シンシアに触れられた男たちと同様に、人間に秘められた獣性が表に出るようになってしまった将介。本能の赴くままに街を徘徊し、見境なく女性を襲い人を殺してしまいそうになったその時、1人の美少女が類稀なる力を発揮して、自分を見失っていた将介を元に戻した。

 美少女の名前は由麻。いにしえより性の奥義をもって日本を裏から支配してきた斎女衆の若き総領だったが、運命に導かれるままに掟を破って総本山を出奔し、身を捧げるべき相手として選んだ「魔醯首羅」の転生を探していた。巻が進むにつれて、将介こそがこの「魔醯首羅」の転生だと確信する由麻だったが、一方で将介が力に目覚めるきっかけを作ったシンシアを操る謎の教団、シャクティ財団が世界を破滅に追いやるプロジェクトを推進。因縁によって由麻と結ばれることができず、「魔醯首羅」本来の力を発現できずにいる将介だったが、由麻といっしょにシャクティ財団、そしてシンシアたちとの戦いへと身を投じる。

 由麻が総領を務める教団も、敵となったシャクティイ財団も、ともに性の力で人間の潜在能力を目覚めさせようとすることが目的の教団。連載されたのが青年誌ということもあって、はじめから終わりまで性に絡んだシーンが数多く登場し、少女漫画誌に連載された「ブルーソネット」とは違う意味(つまりは色欲って点)での面白さを与えてくれた。

 宗教と性の関係がこうも赤裸々に描かれていると、例の教団と関連づけられて語られることもあったんじゃないかと考えてしまうけど、幸いなことに1年半前に例の事件が起こった時には、連載はクライマックスを迎えていたから、宗教を題材にしていたためいらぬ自粛を強要されて、話が歪められたりするようなことはなかったみたい。18巻を持って終了した「クラダルマ」のラストシーンも、破滅ではなく創造を、死ではなく生を、憎しみではなく愛をもって世界を導こうとしてた。

 哀しみに満ちた「ブルーソネット」のラストから10年近くが経過し、「クラダルマ」の感動的なフィナーレを目にして、どうして「ブルーソネット」をあんな終わり方にしたんだという、自分の柴田さんに対する反発の気持ちにも、ようやく1区切りがついたみたい。ぽっかりと空いた時間を埋めるために、古本屋に走ろうか、それとも漫画専門店に駆けつけようかと、今はそんなことを考えている。


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