皇国の

 深見真の「僕の学校の暗殺部」に出てくる暗殺部ほどアンタッチャブルでアンビリーバブルな組織ではないものの、表立って活動はしておらず、決して合法ばかりではない手段を使って学校とか、街とかを怪しい奴らから守っているのが<皇国(ファミリア)>という組織。それは河端ジュン一の「皇国のフロイライン」(富士見ファンタジア文庫、580円)という作品に登場して、社会に潜む悪意や悪事から人々を守っている。

 化物が跋扈しては人を殺めることもあるその街で、かつて幼なじみを化物に殺されたか、連れ去られたかした桐原夕という少年と、両親を殺害された真宮真琴という少女と、同じように化物に襲われた影響で記憶に障害が出た佐伯白乃という少女が出合い、化物に復讐するための活動を始めた。それが<皇国>だ。

 ただの子供ではない。真宮真琴は圧倒的な体力の持ち主で、走れば踏みつけたアスファルトが焼けるほど。ほとんど人間ばなれしたそのパワーで、<皇国>に舞い込む依頼で行った先に現れた敵が、武術とか武器とかを持っていた時に、相手を蹴り飛ばし叩きのめして危機をしのぐ。

 もう1人の佐伯白乃は日常会話にも不自由するくらいコミュニケーションを苦手をしていながら、圧倒的なコンピュータのスキルでネットをくぐり抜け、ありとあらゆる情報を集めてくる。依頼者が誰か分からない時も、ネットをくぐって相手の氏素性を探り当てては、引き受けるべきかどうかの材料を示す。

 そんな2人を<皇帝>として率いる形になっているのが、桐原夕という少年だ。とはいえ、何かとてつもない力の持ち主という訳でもなければ、何かすさまじい特技がある訳でもない。全体の作戦を立てればあとは仲間を鼓舞したり、おとりになって誘い出す役を務めるくらい。女性を襲う相手には女装だって厭わない。それがなかなか似合っているから困ったというか、たまらないというか。

 それでも、真宮真琴と佐伯白乃の2人からは絶大な信頼を受けているから<皇帝>という座に立って、2人をまとめてストーカー退治のような危険な依頼に応えていける。そんな<皇国>に、ひとりの女性教師から依頼が舞い込む。現場にいくと、怪しい人影はなく依頼者の女性教師がいて、そして他人に触れるとドロドロに融かしてしまうような不思議な力を発揮して襲ってきた。

 いったい何者? もしかして化物? いずれいしても危機一髪のところに現れたのが巨大な銃器を持った少女。それは、桐原夕がかつて失い、彼女のために化物を倒そうと近い<皇国>を作ったほどの人物、日下部蓮その人だった。

 どうして彼女は生きていたのか。生きていたのならどうして桐原夕に連絡をとろうとしなかったのか。彼女はいったい何と戦っているのか。それはどういう存在なのか。語られる言葉から、この世界に生まれはびこる異能の存在が見えてくる。そして、街で幾つか起こっている巨大なビルの破壊事件の影に、ひとつの異能の存在が浮かび上がって、無関係とはいえない桐原夕を戸惑わせる。

 とてつもない力が世界規模で存在するなら、世界はもっと混乱を来しているはずだけれど、そうでないのは近隣に限定されているからなのか。そもそもの段階で日下部蓮と桐原夕を襲った化物はどこへ消えたのか。それはいったい何者か。謎もまだ残っていたりして、ひとつの事態が終結しても話はまだまだ続きそう。

 計画を立て、皆に指示を飛ばすだけで、あとは無能なはずの夕が見せたその力が、いったい何を意味するものなのか。それを日下部連が属する組織はどう見てどう扱うのか。そのあたりも今後の展開で描かれていくことになるのだろう。楽しみたい。

 それにしても久々の再会だというのに、どこまでも居丈高な蓮より、彼を慕って<皇国>に加わっている胸の巨大な真宮真琴の方が、桐原夕にとっても読者にとっても選んで選びたくなるヒロインというのは悩むところ。その余りあるパワーで抱きしめられて、肋骨がへし折られるのを覚悟で真正面から感じたいかも。肋骨ぐらいで済めば良いけれど。済まないか。


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