ココロアラウンド 札幌市白石区みなすけ荘の事件簿

 貧乳、といったら真っ向から否定されそうで、それこそが美しくて有り難いのに貧しいとは何事だと怒り出しそうな少年が主人公の、辻室翔による「ココロアラウンド 札幌市白石区みなすけ荘の事件簿」(ファンタジア文庫、630円)は20年ほど前、人類の1万人に1人くらいの割合で超能力に目覚める者が現れたという世界が舞台になっている。

 超能力者が迫害されては暴れて世界が滅亡に瀕するといった、超能力ものにありがちな展開はなく、超能力者はそれなりに管理されつつ暮らしている。つまりは自治。超能力を持った者たちが集まって超能力で悪さをする者たちを取り締まっている。北海道の札幌市白石区にあるみなすけ荘にも何人かの超能力者たちが暮らしていては、超能力に絡んだ犯罪を取り締まるような仕事を請け負っている。

 藤坂工輝も超能力者で、その力は何と「死ぬと生き返る」というもの。不死、という訳ではなく痛みも苦しみも得ながらきっちりと死んでは、あの世みたいなところで胸の薄い……ではなく小さな胸が絶品な女神さまと交流しつつ、A寄りのBなり、Bに近いAといった判断を下しつつ、生き返ってセーブポイントからリスタートするという日々を送っている。

 その日も、流れる人を助けに川に飛び込んだらダッチワイフで、頭を打って死んであの世で女神に笑われても、情けは人のためならずという信念だからと気にしないと言いつのる。そして、生き返っては同じアパートのみなすけ荘で暮らす女神さま同様に胸がジャストサイズな八野心と会話をし、本について話しあったりしていたけれど、そんなみんすけ荘に下着泥棒を捕まえてという依頼があって紛糾する。

 誰の下着を囮に出すか、ということで住人で元ヤンキーで、魔法のステッキを手に持つと視力が良くなったりする佐山花恋の下着については、彼氏でくしゃみをすると姿が消える久地中京が認めない。八野も工輝が断固反対ということで、とてつもなく胸が大きいため、工輝からは肉呼ばわりされている、異能は持っていない牧下玲菜の巨大なブラが囮に使われ、それをとりに現れた泥棒を捕まえようとしたら工輝が刺されて死んでしまった。

 この死んでも生き返るというチートに近い能力が、持っていて楽しそうではないところが「ココロアラウド 札幌市白石区みなすけ荘の事件簿」を俺TUEEE的なユルさに陥れさせない要素になっているのかもしれない。胸の小さな女神に会えて嬉しいけれど、その過程で工輝は結構苦しむ。それを承知でなお死ぬことを恐れない心意気が、苦難を越えた先にある感動といったものにたどり着かせてくれるのだ。

 さて工輝。刺されて死んで生き返って、何やら洗脳が横行していること、そして痴女が話題になっていることが確認される。だったらと探索に回っていた工輝と八野の前に、ブルマ姿でノースリーブの制服という異色の婦人警官が現れる。まさに痴女、なんだけれど違っていた様子。でもいたら本当に凄まじい格好かもしれない。

 そうした出会いも経つつ、男たちを洗脳する本当の痴女との戦いも経て、八野が持っていた超能力が何かが分かって、それが利用されそうになるのを工輝が死んでも生き返る力をフルに使って阻止しようとする、その戦いが凄まじい。死んでもその場で生き返って挑み殺されおうともまた行き帰り戦いを挑む繰り返し。勇気無くしてはできない戦いだ。あるいは信念か。

 ひょっとしたら、持っている命のストックがいつか切れてしまうのではないかといった不安すら抱かせるバトル。幸いというか、工輝の超能力にはそうした制約はないようだけれど、ダメージが酷ければすぐには治らなくなるから使いどころが難しい。そうした超能をどう使うかといった判断と、本当の痴女というかグラマラスな女性によって巡らされる犯罪の様を描いたSFでありミステリとも言えそうな小説だ。

 情けは人のためならずと、工輝が努めてきたことが最後に大きな波を起こして帰ってくるところがやはり良い。持てるものが持てる力を惜しんではいけない。そう思わされる。超能力を持ったものたちがチームとなって、それぞれの能力を巧みに組み合わせることで強大な敵を突破していくような展開があっても良かったと思うけれど、そうしたパズル的要素を吹き飛ばして1人ですべてを持っていく存在がいたからこれで良いのかも知れない。

 何しろ痴女だ。脱げば脱ぐほど力が出る痴女婦警に最後は全部持って行かれた感。もしも現実に存在したなら、札幌だって沖縄だって見物に行くのだけれど。


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