霊都清掃 こいまげ。

 すいません。御免なさい。許してください。謝ります。なんてことをあと100回、繰り返したとして、果たしてあかほりさとるの怒りはとけるのだろうかと考える。

 なるほどこれまで、再三にわたってあかほりさとるのことを「外道」「外道」と呼んできた。ヤングアダルトと呼ばれるジャンルにあって、可憐さ綺麗さに溢れた人々を登場させては猥雑さ淫靡さに溢れた言動を繰り広げさせ、あざとくもすさまじく読者の心をキャッチして来た、その腕前を讃えて「外道」と呼び慣わしてきた。

 けれどもそれは間違っていた。「外道」なんて称号では足りなかった。そんな呼び方では見くびられていると、あかほりさとるは内心きっと怒っていただろう。今ここに言う。あかほりさとるは「外道」なんかではない。そんな温い人間ではない。

 「ど外道」。そう。あかほりさとるは「ど外道」だったのだ。「外道」中の「外道」にして「キング・オブ・外道」の、「ど外道」様だったのだ。謝らなければならない。許しを乞わなくてならない。

 どうして間違えてしまったのか。それはやはり、これまでヤングアダルトという、リミッター付きのジャンルでしかその技に、見えることができなかったから、だろう。今般「カッパ・ノベルズ」から刊行なった「霊都清掃 こいまげ。 第1巻」(光文社、781円)を読めば、それは明かだ。

 読者対象がヤングという、ヤングアダルトに必然の縛りから離れて、思いの丈をぶつけたその内容は、ヤングのとれた”アダルト小説”と言って受ける印象にどんぴしゃり。その冒頭、「Penisは女の中に入っていく」(10ページ)という描写に始まったプロローグを紹介するだけで、内容の「ど外道」ぶりも伝わると言うものだろう。

 そんな描写も「ど外道」なら、主役のうちの美青年の方、赤坂仁奈の性格がまた「ど外道」。超絶的な美貌を誇り、大学在学中ながらバイトで働いていたホストクラブでは常にナンバーワン。溺れる女性は後をたたず、テレビで人気の女優までもがその足下に跪く。

 けれどもその美貌と対照的に、性格は我侭勝手の極地を行っていて、女性には徹底した冷酷非情さを貫く。自分を引き留めたかったら縄でも着て来いと言われた言葉を真に受けた女優が、コートの下の全裸を荒縄で縛っただけの姿で六本木の街頭にはいつくばっても、顔色をかえずその体を蹴り飛ばし、後も振り向かずに歩み去る。

 他人には羨ましく思える日々でも、仁奈にとっては虚ろな日々。が、そんな日々が、六本木の路上で冒頭のシーン、しきりに謝る男によって女性が犯されていた現場に行き当たることによって大きく分かる。女性から離れた男の口から現れた謎の怪物が、六本木の空へと舞い上がっていく姿を見て、仁奈はこれこそが望んでいたものだと歓喜する。

 そして、どう調べたのか仁奈良は謎の怪物の正体をつきとめ、大学を卒業するのと同時に、東京都庁から各区へと移管されたはずなのに、なぜか残っていた清掃局の第四課へと入局する。第四課とは何なのか。なるほど清掃局だけあって掃除はする。けれども掃除するのはただのゴミではない。

 第四課の仕事とは、人々に災いを成す霊的な汚れを祓い、呪いを祓うことだった。そしてその方法こそが、「エクスタシー・エクトプラズム」、略して「エクエク」を女性から取り出して身にまとい、首都を脅かす霊障を打ち払うというものだった。

 どうやったら「エクエク」は取り出せるのか。それがすなわち冒頭の、「Peniceは女の中に入っていく」シーンにつながる、一連の前後運動だ。わかっただろう。「霊都清掃 こいまげ。」の「ど」がつく「外道」ぶりが。仁奈が六本木でみかけた男性、左右田益荒男がその能力を使うたびに、読者の顔は赤くそまり、下半身は固く猛って来る。

 もっとも当の益荒男には、自分がいかに「ど外道」なことをしているかが分かっている。そして、そのことを心に悔やんでいるところがあって、行く先々で激しい葛藤を見せる。冒頭で謝りながら女性の「エクエク」を引き出そうとしていた場面もそう。物語の後半、東京の街に災いをなそうと企む一味の陰謀に巻き込まれた形の、大学助教授夫人を相手にする時もそう。霊障から露出狂的なふるまいをしている女子大生を相手にする時もそう。いつも疚しさをのぞかせる。

 極めつけは、同僚の木森草花という名の女性を相手にした時。益荒男が内心惹かれている女性だが、草花の方はといえば益荒男の能力を知っていて、どちらかといえば敬遠気味。だがそれを、憧れている益荒男にキツくあたっていると見た仁奈は、第四課に入局できた理由にもなった、美貌以外の特殊な能力を駆使して草花を虜にし、言うことを聞くよう調教した上で、益荒男のもとへと送り込む。

 好きな女性と結ばれる。けれども相手は自分のことが好きではない。拒否したい。けれども体は拒否できない。ああ、なんという「ど外道」ぶり! 感動と官能に体は震える。下半身が棒立ちになる。そんな描写の「ど外道」ぶりとは裏腹に、心にじんと来るものがある。

 そんなこんなで、あらゆる場面に「ど外道」が溢れた第1巻だが、「エクエク」の力を悪用して、強力な悪霊を呼び寄せようと企む一味との戦いも一方にはしっかりを描かれて、物語は清掃局第四課対謎の一味の様相を呈しつつとりあえずの巻を閉じる。

 次巻以降、仁奈と益荒男以外のメンバーの、女性で美人ながら年齢のことに話が及ぶと冷酷なオーラを発散する課長の魔弓鏡子や、情報通で鳴る犬咆岬、体つきは肉塊ながらもある意味最強の力を持つらしい局長らの、秘められた能力を発揮しての本格的な活躍に期待がかかる。

 草花と複雑な関係に陥った益荒男に明るい未来は訪れるのか。女性を徹底して嫌悪する仁奈の「ど外道」ぶりに変化は訪れるのか。それともさらに「ど外道」ぶりを極めるのか。いわゆるエロティックなシーンの「ど外道」ぶりのエスカレートともども、楽しみにして続刊を待ちたい。


積ん読パラダイスへ戻る