異世界からの企業進出!?転職からの成り上がり録
1 入社篇  2 リクルート篇

 小説投稿サイトに連載されているからといって、すべてが異世界転生でもないし俺TUEEEでもない。とはいえ異世界に転生したような気にさせ、非日常への興味を誘いつつ俺TUEEEではなくても強くなれる可能性を示唆して、頑張ろうという気にさせる絶妙なさじ加減を持っているから、七士七海の「異世界からの企業進出!?」という作品は早川書房に目をつけられ、文庫としての刊行へと至ったのだろう。

 その第1巻が「異世界からの企業進出!? 転職からの成り上がり録1 入社篇」(ハヤカワ文庫JA、720円)。ブラック企業を辞めて魔力を持った人だけが読めるチラシに誘われ田中次郎が入った会社は、魔王のダンジョンに挑戦してくる勇者でも大変なダンジョンを作り出すためのテスターが仕事。つまりは勇者側ではなく魔王の側については日々、ダンジョンにもぐってモンスターと戦い、その大変さとか攻略のしづらさなんかを確かめていくというものだった。

 集められた新入社員の中で、田中次郎はひとり年齢が30絡みだったこともあって若い人たちとパーティが組めず、ソロで頑張っていたら魔王の配下にあってめちゃくちゃ強い将軍たちに気に入られてしまった。身分を隠して教官となって田中次郎を鍛える将軍たち。それこそ瀕死の状態まで追い込まれながらも死なず、起き上がってはだんだんと戦闘力を高めていって、1人で第1層を攻略したりする活躍を見せ、ますます将軍たちに気に入られた田中次郎は、人事課テスター部主任を務めるダークエルフのスエラさんからも強い関心を頂かれる。

 そんな羨ましい展開もあった第1巻に続いて登場した第2巻「異世界からの企業進出!? 転職からの成り上がり録2 リクルート篇」(ハヤカワ文庫JA、760円)。いくら将軍たちに気に入られても、それですべてが巧くいくとは限らないのはソロというハンディがあるからで、第1層は突破できてもそれから先となると1人で攻略がはなかなか大変。いっしょに入社したパーティも減ってしまったから人手が足りず、デバッグが滞ったこともあって、人事部長で悪魔で美人のエヴィア監督官から新人を勧誘するよう言い渡される。

 もっとも、若いテスターたちは勧誘は自分たちの仕事ではないと拒絶。田中次郎だけがソロということもあってやはり自分が頑張らなくてはと地上に赴き、新入社員を探して回る。海堂忠というブラック企業時代の後輩をまずは引き入れ、それほど魔力適性は高くなくてもブラック企業で働いていた根性を発揮させ、将軍が名を伏せた教官たちを相手にそれなりに生き延びるようにさせる。

 それから大学生の女子ながらもコミュニケーションに難があってか引きこもり気味でゲームばかりしていいて喋ると語尾が「ござる」になる知床南と、彼女とは幼なじみでだらしがない南をずっと世話してきた年下で高校生の所沢勝をどうにか引っ張り込んで、それぞれに強くなっていってもらう。勝には南を世話する生活の中で培った料理の腕も振るってもらう。

 南についてはファンタジーでRPGの世界に来られて大興奮だったものの体力なく、まずはランニングをさせ体力を向上させ、そしていよいよダンジョン攻略へと出向いた時に南のゲーマーとしての知識や経験が炸裂。敵を見抜きパーティーを指示して戦いを勝利に導き、田中次郎たちは一気に第4層まで攻略して大喜び。ところが、戻ったオフィスで待機中に起こったゴーレムの暴走で、新米の南も勝も身がすくんでしまう。

 それでもようやく得たパーティー仲間を救おうと田中次郎が奮闘し、南もそれなりに働いて危機を乗りこえ生還を果たしたことでスエラさんが田中次郎にもうぞっこん。そして育まれた愛がダークエルフと人間という、年齢差もあれば寿命の差もあるカップルにどんな影響を与えるか、といった興味が浮かぶ。とりあえず田中次郎は“成長”する必要があってこれまで以上にダンジョン攻略に身を入れそう。

 とはいえ、デバッグがメインだから攻略すればするほど難しくなっていくダンジョンでパーティーは、そして他の新入社員たちは生き延びられるのか。あと田中次郎のパーティのメンバーはまだまだ増えるのか。地上で少しだて立ったフラグの回収とかも気になるし、邪険に扱った他のパーティとの軋轢も気になるところ。自販機の前で小さな少女に対して後輩が見せた優しさが、巡り巡ってパーティに何かをもたらす可能性もあって、それらが描かれるこれからの展開が今は楽しみ。

 それにしても楽しそうな仕事。ブラックであっても楽しんで、やりがいが感じられてそして稼げるのならそれはそれで良いのかもしれない。そんな仕事がブラックなはずはないのだけれど。


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