怪獣

 世間が害悪と見なして恐れる怪獣になってしまった中年男の日比野カフカが、怪獣ならではのパワーを正義のために使って怪獣を倒そうと奮闘する。松本直也の漫画『怪獣8号 1』(集英社、480円)は、カフカが怪獣として退治されるのを恐れ、正体を隠そうとしてあたふたするコミカルな様が面白く、怪獣を相手に振るうパワーのすさまじさから『ワンパンマン』のようなカタルシスも味わえてと、1冊で何度も美味しさを味わえる作品だ。

 もっとも、人間を遙かに超越した存在となったカフカが行き着く先で、鬼に堕ちなかった『鬼滅の刃』の竈門禰豆子や、特級呪物の両面宿儺を抑え続ける『呪術廻戦』の虎杖悠仁のように、どこまでも正義を貫き通せるのか。それとも『デビルマン』の不動明のように、人間を憎み始めるのかが気になって仕方がない。

 怪獣が発生する世界の国々でも、とりわけ発生率が高い日本では、怪獣を相手に戦う防衛隊が組織されていて、憧れの職業になっている。そんな防衛隊員に、32歳の日比野カフカという中年男もかつてはなろうと挑戦しては、不合格になり続けていた。年齢制限が来て受験資格を失ったカフカは、それでも怪獣討伐に関わる仕事がしたいと、退治された怪獣を除去する清掃会社で働いていた。

 そこに朗報。防衛隊員受験の年齢制限が33歳まで引き上げられた。小学生だった頃の幼なじみで、今は防衛隊第3部隊を率いる隊長として戦っている亜白ミナの横に立てるかもしれない最後のチャンスに挑むカフカだったが、その身に起こったとてつもない事態が、彼を奇妙な立場に追いやる。

 今一度、防衛隊員を目指すと決意したカフカの前に小さな怪獣が現れ、「ミツケタ」と喋ってカフカの口に飛び込んだことで、カフカは人型ながら怪獣のような姿になってしまった。このままでは防衛隊に討伐されかねないと逃げ出したカフカの前に、新しい怪獣が出現して、人間の親子を襲おうとしていたその時、カフカのパンチが炸裂して怪獣が木っ端みじんに粉砕される。

 普通では考えられない強い力を振るえるようになったことで、防衛隊員になる夢が近づいたカフカだが、怪獣だとバレたら即討伐は避けられない。怪獣であることを隠して防衛隊員となり、怪獣の力を使いながら活躍していければ問題はないが、そううまく隠しきれるのか。それより果たしてカフカはカフカのままでいられるのか。怪獣としての本能にカフカの心が飲み込まれ、暴れ出すかもしれない。そうなった時、カフカは禰豆子や悠仁のように兄への思い、祖父の教えに導かれ、自我を保ち続けられるのか。見守る必要があるだろう。

 第1巻の最後に登場した、円盤のような頭をした人型の怪獣が、何か画策していそうなことが連載の中で示されている。これはカフカのように人間が怪獣になったものなのか、それとも怪獣が人間のふりをしているだけなのか、カフカの将来を考える上で気になってしまう。

 それでも当面は、怪獣であることを隠し、防衛隊の採用試験に挑んで見事に採用されることになるカフカの、圧倒的なパワーで怪獣たちを粉砕していく格好良さにふれつつ、諦めないで頑張る大切さを思い浮かべよう。その上で、いつかカフカに差別や憎悪の感情が向いた時、彼が選び取る道を見極めることで、憎しみが憎しみの連鎖を招いて混乱が深まる現代社会の悪循環を、どうやって断ち切るかを考えよう。


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