摩天楼の悪夢


 「講談社ノベルズ最強の4人組は」。そう聞かれた人のおそらく9割は、「竜堂4兄弟に決まってるよ」と答えるでしょう。田中芳樹さんの「創竜伝」に登場する始、続、終、余の竜堂4兄弟は、日本政府はもとよりアメリカ政府だって鼻であしらう実力の持ち主、世界を牛耳る「四人姉妹(フォーシスターズ)」ですら1目も2目も置くという存在ですから、そんじょそこいらの殺人犯やテロリストなどが、束になってかかってもかなう相手ではありません。

 では2番目は。これにはちょっと迷います。というよりは4人組という登場人物を、他に何組も思いつくことができないのです。創刊からもう14年になる講談社ノベルズですから、その間に登場した4人組だって、結構な数に上るはずでしょう。しかし「竜堂4兄弟」の圧倒的なパワーの前では、いかなる存在も霞んでしまうというのが実状です。強すぎるのも時には大いなる罪ですね。

 敢えて幾つか挙げるとすれば、存在感という意味で、京極夏彦さんのシリーズに登場する探偵4人、人呼んで「京極堂チーム」は、2位グループのトップを他と争うだけの実力を持ったチームでしょう。関口巽、榎木津礼二郎、木場修、そして京極堂こと中禅寺秋彦の4人を前にすれば、いかな猟奇犯であろうと、あるいは妖怪変化であろうと、たちどころに追いつめられ、正体を暴かれ、調伏されてしまいます。関口と木場などはほとんど活躍していないじゃないかと、そんな反論が出るだろうとは思いますが、雨男といか騒動屋というか、起承転結の起の部分を担う存在(結はもちろん京極堂ですね)だと思えば、これでなかなかまとまった4人組といえるのではないでしょうか。いさま屋はまだまだチームには入れません。

 さて、ここにきて「京極堂チーム」を急追しているチームがあります。羽柴壮介、神崎謙太郎、夢野美香、七月響子の4人がチームを組んだ「新宿少年探偵団」は、遊びたい盛りの中学2年生でありながら、すでに2人の怪人と矛先を交え、これらを撃退していまから、その実力の程はうかがえます。「シータ」と名付けられた凶悪な生物を操る「髑髏王」、鴉を操る神出鬼没の怪人「大鴉博士」も、4人の活躍の前に野望をくじかれ、滅びたり撤退を余儀なくされました。「蘇芳」と呼ばれる謎の「少年」が彼らを助け、さまざまなツールを与えていますが、彼は1種の指揮官ですから、チームに入れるのはちょっと差し控えたいと思います。ジャン・ポールも同様です。

 太田忠司さんが生み出し、今なお成長を続ける「新宿少年探偵団」の新たな戦いが始まりました。最新刊「摩天楼の悪夢」(780円)で4人組が対峙することになった敵は、髑髏王や大鴉博士のような奇々怪々な姿を持っては登場しません。4人が大鴉博士と死闘を繰り広げた摩天楼が完成し、中に多くのテナントや企業が入居しましたが、不思議な力を持った蘇芳を持ってしても、真の所有者が解らないという謎を抱えたままでの竣工となりました。何しろ大鴉博士がアジトとして使っていたビルです。謎を謎のまま置いておくことへの不安でしょうか、蘇芳は4人に調査を命じます。「新宿少年探偵団」3度目の出動です。

 摩天楼の最上階に住む銀行家の夫婦、その夫婦と浅からぬ因縁を持ったコンピューターソフト会社の経営者たち。激しいソフト開発競争の中で生まれた裏切りの連続が大勢の人たちを傷つけ、傷つけられた人たちの間に深い怨恨を残します。つもり積もった怨念に、そっと忍び寄る大鴉博士の邪悪な誘惑が、銀行家やソフト会社の経営者たち、そして我らが「新宿少年探偵団」を巻き込んだ、血みどろの惨劇へと発展していきます。

 最後の最後で無事事件を解決する「新宿少年探偵団」ですが、所詮はまだまだ中学生ですね。蘇芳の助力なしには、なかなか敵に勝つことができないようです。「新宿少年探偵団」を襲う新たな敵も登場してきました。「蘇芳」の正体や、壮介の祖父の元に出入りする謎の男の正体といった具合に、謎もどんどんと増えていきます。「新宿少年探偵団」の第5のメンバーともいえる「麻里」の存在という、シリーズ最大の謎も残されたままです。けれども確実に成長を続ける4人組が、すべての謎が明らかになり、すべての敵を葬り去った暁には、「竜堂4兄弟」とまではいかないにしても、地球人(龍神ではないということ)としては最強の4人組になっているかもしれないと、想像することは充分に可能です。

 幾つもの謎を抱えたまま、4度新たな敵を向かえ撃つことになる「新宿少年探偵団」の活躍やいかに。続刊への興味は増すばかりです。


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